あの有名なMusic Videoの撮影場所はここだった。Vol.3
POP DISASTER「Calling」× MY FIRST STORY「ALONE」× 水樹奈々「Exterminate」× CAPSULE「Another World」——四つの名MVが生まれた、茨城・高萩の聖地
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はじめに——「あれ、同じ場所じゃない?」という気づきから
音楽ファンなら一度は経験したことがあるだろう。お気に入りのMVを繰り返し観ているうちに、「あれ、この背景、別のバンドのMVで見たことある…」と気づく瞬間が。
今回取り上げるのは、そんな「同じ場所で撮られたのでは?」という声がファンの間で長年ささやかれてきた四本のMV——POP DISASTERの「Calling」、MY FIRST STORYの「ALONE」、水樹奈々の「Exterminate」、そしてCAPSULEの「Another World」だ。
崩れかけたコンクリートの壁、むき出しの鉄骨、広大な廃工場の内部。それぞれジャンルも雰囲気もまったく異なるこれらのMVに共通するロケーションは、実は同一の場所で撮影されたと言われている。その場所が、茨城県高萩市にあった「AP&PP高萩事業所」——かつて日本加工製紙の主力工場だった巨大な廃墟だ。
POP DISASTER「Calling」
——ラジコンヘリが捉えた、廃墟の中の疾走感
まずはPOP DISASTERの「Calling」について振り返ろう。
POP DISASTERは2003年に結成された日本の4人組ポップ・パンクバンドだ。国内のみならず、PARAMOREやNew Found Gloryといった海外の大物バンドからも高く評価されてきた実力派で、その旋律センスは「なぜもっと売れないのか不思議」とまで言われた、いわば「知る人ぞ知る」存在だった。
「Calling」は2012年10月にリリースされたアルバム『CALLING』の表題曲。MVはNINOというディレクターが手がけた作品で、前作のMVで日本初となる最新技術HDRを使用したことで話題を呼んだ同氏が、今作ではラジコンヘリコプターを駆使した撮影に挑んでいる。縦横無尽に飛び回るラジコンヘリが、廃工場の中でバンドメンバーが熱演するシーンを自由なアングルで捉えており、当時としては非常に斬新な映像表現として話題を集めた。
廃墟の無機質な壁とメンバーの演奏が織りなす映像は、楽曲の持つエネルギーを最大限に引き出しており、「Calling」というタイトルが持つ「呼びかける」という意味とあの廃墟の雰囲気が不思議なほどマッチしている。
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MY FIRST STORY「ALONE」
——火柱の中に立つ、圧倒的な存在感
続いてMY FIRST STORYの「ALONE」だ。
MY FIRST STORYは2011年に結成されたロックバンドで、ボーカルのHiro(森内寛樹)はONE OK ROCKのTakaを兄に持つことでも知られる。結成当初からそのエモーショナルな楽曲スタイルで若い世代を中心に熱狂的なファンを獲得し、日本のロックシーンの中でも独自のポジションを確立してきたバンドだ。
「ALONE」は2015年8月にリリースされたシングルの表題曲で、学校法人・専門学校「HAL」の2015年度テレビCMソングとして広く知られた楽曲でもある。MVには火柱の中で演奏するメンバーの姿が収められており、その圧倒的なビジュアルと楽曲の疾走感が見事にマッチした、バンド史に残る名MVとして今も語り継がれている。
あの火柱の演出——あの広大な廃工場の空間があったからこそ成立したシーンだったのだ。
水樹奈々「Exterminate」
——廃墟に立つ、白いワンピースと男装の二面性
三本目は声優アーティスト界のトップランナー、水樹奈々の「Exterminate」だ。
水樹奈々は声優としての活躍と並行して、NHK紅白歌合戦に6年連続出場するなど、声優アーティストの枠を超えた存在感を誇る。「Exterminate」は2015年7月にリリースされた33枚目のシングルで、TVアニメ『戦姫絶唱シンフォギアGX』のオープニングテーマだ。タイトルの意味は「殲滅する」——その激しい言葉どおり、MVは強烈なビジュアルで視聴者を圧倒する。
MVでは、炎が立ち込める廃墟の中に白いワンピース姿で佇む水樹と、サビでは打って変わって黒いジャケットにハット姿の男装姿でオーケストラを従える水樹という、まったく対照的な二面が描かれている。廃墟という空間が、この光と影、静と動のコントラストをさらに際立たせており、「Exterminate=殲滅する」という楽曲タイトルの世界観を見事に体現した映像に仕上がっている。
音楽番組「ミュージックステーション」にこの曲で初出演を果たし、声優アーティストとしては椎名へきる以来2人目の快挙として話題を呼んだことも記憶に新しい。
CAPSULE「Another World」
——廃墟でドローンレースが始まった
四本目は、中田ヤスタカ率いるCAPSULEの「Another World」だ。
CAPSULEは中田ヤスタカ(プロデュース)と小島麻由美(ボーカル)によるユニットで、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースでも知られる中田ヤスタカが手がける独自の電子音楽で、常にシーンの先端を走り続けてきた存在だ。
「Another World」は2015年1月にデジタルシングルとして配信され、同年2月リリースのアルバム『WAVE RUNNER』に収録された楽曲。このMVが特に異彩を放っているのは、廃墟という舞台を使いながらも、そこで繰り広げられる内容が他の三本とまったく異なる点だ。
MVの設定は「CAPSULE CUP 2020 WAVE RUNNER」と銘打たれた架空のドローンレース。廃墟に設けられたゲーム空間のようなレース会場で、最新鋭の機体を有する3チームが実際のドローンを使って熱戦を繰り広げる——というSF的な世界観が展開される。チェッカーフラッグを振るサーキットレディとして青文字系モデルのゆらが登場し、独特の近未来感を演出している。
監督はPerfume、OK Goなど国内外数々のMVを手がける関和亮。テクニカル・ディレクターにはRhizomatiksの真鍋大度が参加し、さらに中田ヤスタカ自らがMV用にサウンドをリエディットするという豪華な布陣で制作された。
廃墟という「過去の残骸」の空間に、ドローンレースという「未来のスポーツ」を持ち込んだこの発想は、あの広大な廃工場の空間があってこそ実現した映像表現だと言えるだろう。
聖地の正体——「AP&PP高萩事業所」とは何だったのか
日本加工製紙の歴史
この場所を理解するためには、もとの持ち主である「日本加工製紙」の歴史を知る必要がある。
日本加工製紙は、カタログなどに使用されるコート紙やアート紙を製造していた製紙会社で、東証1部にも上場していた中堅メーカーだった。しかし、約831億円にのぼる負債を抱えて自己破産。茨城県高萩市に存在した主力の高萩工場も、その波にのまれることになった。
AP&PPによるロケ地への転換
破産後、高萩工場を買収したのがインドネシアの華人系財閥・シナルマス・グループの日本法人「AP&PP(オール・ペーパー・アンド・プリンティング・プロダクツ)」だ。AP&PPは工場から設備を搬出した後、広大な跡地を「AP&PP高萩事業所」として管理し、映像作品の廃墟シーンのロケ地として貸し出すという、異色の活用方法を選んだ。
かつて製紙機械がひしめいていた巨大な建屋が、そのままの姿でロケ地として開放されたわけだ。剥き出しの鉄骨、広大な空間、工場特有の無機質な構造——これらが映像制作の現場から熱い視線を集めた。
高萩市フィルムコミッションも支援した「聖地」
高萩市もまたフィルムコミッション事業としてこの場所の撮影誘致を積極的に支援しており、実績は驚くほど豊富だ。AKB・あいみょん・SUPERFLYといったアーティストのMV、NHKドラマ「ひよっこ」、仮面ライダーシリーズ、映画「HIGH & LOW」シリーズ、アサヒ飲料やキリンのCMなど、多岐にわたる作品がこの地で撮影された。
今回紹介した四本のMVも、そんな数多くの名作が生まれた場所のひとつだ。ロック・アニソン・テクノポップという異なるジャンルのアーティストたちが、同じ廃墟に引き寄せられていたというのは、この場所が持つ「引力」を如実に示している。
なぜAP&PP高萩事業所がMV撮影に選ばれたのか
圧倒的なスケール感
何といっても最大の魅力は、その「本物のスケール」だ。製紙工場として稼働していたこの建屋は、大型機械を収容できるほどの広さと天井高を誇っていた。スタジオのセットでは絶対に再現できない、本物の廃工場が持つ圧倒的な「広がり」と「重厚感」がそこにはあった。
「Calling」のラジコンヘリ、「ALONE」の火柱、「Another World」のドローンレース——どれも、あの広大な空間があってこそ成立した映像だ。水樹奈々の「Exterminate」における、廃墟に佇む孤独なシルエットの美しさも同様だ。
火気・特殊効果・ドローンが使えた
「ALONE」の火柱や「Exterminate」の炎の演出、そして「Another World」の実機ドローンレースと、いずれも市街地やスタジオでは安全上の理由から許可が下りにくい演出ばかりだ。周囲に民家が少ない広大な工場跡地という環境が、これらの挑戦的な表現を可能にしていた。
都心からのアクセス
茨城県高萩市は東京からJR常磐線で約2時間。決して近いとは言えないが、大型の機材やスタッフを乗せたロケバスでのアクセスも不可能ではなかった。本物の廃工場を求めるなら、この距離は許容範囲だったのだろう。
そして聖地は消えた——メガソーラーへの転換
2018年5月、AP&PP高萩事業所の歴史に幕が下りた。工場跡地の大部分を占める約33ヘクタールに、最大出力2万5千キロワットの大規模太陽光発電施設(メガソーラー)が竣工したのだ。
廃墟の聖地は、今や広大なソーラーパネルの海へと姿を変えている。高萩市のフィルムコミッションのページにも「日本加工製紙(AP&PP)については、撮影場所として使用することができなくなりました」と明記されており、あの場所はもう存在しない。
四本のMV——それぞれまったく異なる世界観を持つその映像の中にだけ、あの廃墟は今も生き続けている。
おわりに——消えた場所が残したもの
ミュージックビデオにおけるロケーションは、単なる「背景」ではない。そのアーティストの音楽観や、楽曲が持つ世界観を視覚的に体現する「もう一人の出演者」だ。
AP&PP高萩事業所というひとつの廃墟が、ポップパンク・エモロック・アニソン・テクノポップという四つの異なる音楽の熱量を持つMVを生んだ。ロックバンドが爆音を鳴らし、声優アーティストが炎の中に立ち、ドローンが縦横無尽に飛び回る——同じ廃墟がこれほど多彩な表情を見せてくれる場所だったということに、改めて驚かされる。
四本のMVをぜひ見比べてみてほしい。あの廃工場の空気感が、それぞれの楽曲の世界観をどれだけ高めていたか、きっと新しい発見があるはずだ。
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※本記事の撮影場所に関する情報は、Wikipediaおよび高萩市フィルムコミッション推進室の公式情報をもとにしています。AP&PP高萩事業所は現在メガソーラーとして整備されており、立ち入ることはできません。

