No Busesという日本のインディーが海外で先に見つかった話
こんにちはmonaです。
日本のバンドが海外で先に見つかる、という現象があります。
よく聞くのは「日本では無名だったのに海外で大ヒットした山下達郎の『ラブランド、アイランド』」みたいな話で、SpotifyやYouTubeが国境を無効化してから、この手の”国境逆転現象”は驚くほど頻繁に起きるようになりました。
でも、2018年にリリースされた1stシングルがなぜか南米を中心にカルトヒットしてMV再生数が一気に伸びたという、いまの日本のインディーシーンを語る上で絶対に外せないバンドがいます。Arctic Monkeysの曲名をそのままバンド名に拝借して、The Strokes、The Cribs、VampireWeekendあたりの2000年代USインディー/UKガレージの空気を完璧に日本に着陸させた5人組──いや、ここ数年は3人組として動いているNo Busesです。
No Busesってどんなバンド?
No Buses(ノー・バシーズ)は、2016年結成の東京を拠点とする日本のロックバンド。レーベルはS.S.G.G.。
バンド名は予想通り、Arctic Monkeysの楽曲「No Buses」から拝借しています。これだけ聞くと「ああ、またインディー好きの学生バンドがフォロワーっぽい名前つけたやつね」と思うかもしれないんですけど、実際に音を聴くと一発で分かる。これ、フォロワーじゃなくて、もう完全に自分たちの咀嚼物としてUSインディー/UKガレージの語彙を使いこなしているバンドだ、と。
歌詞は全編ほぼ英語。ガレージロックをひとつのルーツにしながら、The Strokesの『Is This It』というよりは後期の『Comedown Machine』、Vampire Weekend、Mac DeMarcoあたりにも繋がる乾いたインディーポップの質感が全編を支配しています。
そして特筆すべきは、日本人が聴いても琴線に触れるメロディを書くこと。サビでくる泣きのフレーズは明らかに日本的で、歌詞は英語なのに、どこかJ-POPの体温が残っている。この「洋楽の体で鳴っているのに、日本人の耳にどこか馴染む」感じが、おそらく国内と海外の両方で彼らが愛される理由です。
メンバー紹介
現在のNo Busesは3人編成で活動しています。結成当初から幾度かメンバーの出入りがあり、2024年末に大きな体制変更がありました。順を追って紹介します。
近藤大彗(こんどう たいせい)ヴォーカル/ギター
バンドの中心人物であり、楽曲の作詞・作曲を一手に引き受けるフロントマン。1997年生まれ。
高校時代から自宅でデモを作り込むタイプの宅録系ソングライターで、Garage Bandで打ち込みを重ねながら曲を作っていたそう。神田外語大学時代に同じサークルだったギターの後藤晋也に自作デモを聴かせたことをきっかけに、No Busesの原型が生まれました。
「Cwondo(クウォンドウ)」名義でのソロ活動も並行していて、こちらは打ち込み主体のエレクトロ/アンビエント/ポップの領域。ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の挿入歌「Crescent Morning」にヴォーカルとして参加したり、ヒプノシスマイクへ楽曲「Andante」を提供したりと、No Busesの外側でもとんでもない仕事を量産しているマルチプレイヤー。
本人いわく「Cwondoよりもバンドの方が内向的な音になる」らしく、この発言、普通逆じゃない?と思うんですけど、No Busesの楽曲を聴くと妙に納得してしまう。バンドという装置を通すことで、近藤大彗の内面がより深く沈み込んでいく、そういう種類のプロジェクトなんです。
杉山沙織(すぎやま さおり)ベース
バンドの紅一点。神田外語大学で近藤・後藤の1つ上の先輩にあたり、ベース担当。
ソリッドで曲の輪郭をくっきり立たせるベースラインが持ち味で、彼女のベースが入ってからNo Busesの楽曲は一気に立体的になったという指摘はファンの間でもよくされる話。地味だけど替えの効かない、バンドの背骨です。
和田晴貴(わだ はるき)ギター
セルフタイトル2ndアルバム『No Buses』(2021)の制作期に加入した3本目のギター。近藤に誘われる形でバンドに合流しました。
「トリプルギター体制」という、世界的に見てもわりと珍しい編成はこの和田の加入によって実現したもので、2ndの空間的でサイケデリックな広がりは彼のギターあってのものでした。現在は後藤が脱退したため、2本のギターのうち片方を担う形になっています。
旧メンバー:後藤晋也、市川壱盛
結成時から近藤と一緒にバンドを動かしてきたギターの後藤晋也は、2024年12月20日をもって脱退。ドラマーの市川壱盛も2023年2月に脱退していて、現在のNo Busesはサポートドラマーを迎える形で近藤・杉山・和田の3人をコアとして活動しています。
結成期からずっと二本柱だった近藤と後藤のコンビが解消されたのは、ファンとしては正直ショックな出来事でした。でも、近藤はそこから止まらずに2025年春の新アルバム『NB2』を完成させていて、バンドの”脱皮”は現在進行形で進んでいます。
大学サークルから世界のアルゴリズムに乗るまで
結成期(2016〜2017)
2016年、大学のサークルで知り合った近藤と後藤が、近藤の高校時代のデモを肴にして「バンドやろうよ」と話したのがNo Busesの始まり。
最初期はメンバーの出入りもあり、現体制に落ち着くまでにいくらかの試行錯誤を経験しています。ライブハウスで細々と活動しつつ、ひたすら自分たちの好きな音楽を鳴らす、というごく普通のインディーバンドでした。
当時から英語詞で歌っていたのは、近藤本人が外国語学部で英語を学んでいたことに加えて、「自分たちが聴いてきたのが洋楽だったから、それが自然だった」というシンプルな理由。”日本のガラパゴス市場で勝負するつもりがない”みたいな大袈裟な戦略ではなくて、ただただ自分たちの耳に忠実だっただけ。これが後に効いてきます。
1stシングル「Tic」で世界に発見される(2018)
2018年4月、1stシングル「Tic」をリリース。
このMV、勝呂亮伍という映像作家が手がけているんですけど、チープでポップでどこかシュールな、たぶん予算2万円くらいで撮ってるだろというDIY感が全開の映像でした。
ところがこれが、どういうわけか南米を中心に世界中でカルトヒットしてしまう。再生回数は公開から数ヶ月で25万回を突破し、コメント欄にはポルトガル語やスペイン語のコメントが並ぶ事態に。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchこと後藤正文氏にも国内でフックアップされ、同年の「出れんの!? サマソニ!?」枠から選出されてSUMMER SONIC 2018に出演。
国内ではまだほぼ無名だった彼らが、海外のインディーロック好きにアルゴリズム経由で発見されて、そこから逆輸入的に国内にも広がっていく──いま振り返ると、配信時代の発見のされ方を先取りした事例だったと言えます。
フランスの『Rolling Stone』誌ほか欧州メディアにも紹介され、気づけば日本国内より先に海外の音楽好きの間で名前が知られているバンドになっていました。
1st EPから1stアルバムへ(2018〜2019)
2018年12月、1st EP『Boring Thing – EP』をリリース。発売から3ヶ月で完売。Tomato Ketchup Boysとの共同企画ライブも東京・大阪ともにソールドアウト。国境を超えて活動が期待される、という評価が国内メディアでもようやく定着し始めます。
2019年9月、1stフルアルバム『Boys Loved Her』をリリース。
「Tic」「Rat」「Ill Humor」「Untouchable You」など、初期の代表曲を全部詰め込んだ結成期の集大成で、ガレージロックのエッジとインディーポップのメロウさを行き来する彼ららしさが完全に確立された一枚。この頃の音は本当に瑞々しくて、「好きなものをただただ鳴らしている、売れる売れないを考えていない」そのままの音なんです。
2ndアルバム『No Buses』(2021)
2021年6月、2ndアルバム『No Buses』をリリース。
新メンバー・和田晴貴が加入して、初めて作曲段階からメンバー全員が関わった作品。スペイシーなキーボード、リバーヴの効いた三本のギター、打ち込みも積極的に取り入れたサウンドメイク。結果として初期のカラッとしたガレージポップから一変、湿度の高い、内向的でサイケデリックな音へと大きく舵を切ることになりました。
近藤本人はこの時期、「The Strokesの『Is This It』よりも『Comedown Machine』」と語っていて、要するに初期ガレージ回帰の2000年代前半ではなく、その後バンドが迷走しながら辿り着いた内省的な場所の方に共鳴していた、ということ。これ、バンドの趣味としても成熟の証拠としてもめちゃくちゃ良い指標だと思うんです。
3rdアルバム『Sweet Home』(2022)
2022年、FUJI ROCK FESTIVAL ’22 RED MARQUEEに出演。日本のインディーバンドとしての大きなマイルストーンを通過します。
同年9月、3rdアルバム『Sweet Home』をリリース。かわいいテディベアが不気味な雰囲気を纏うジャケット、そして「Sweet Home」という幸福そうなタイトルの裏にある不穏──この二重性が全編に通底する作品で、デジタルサウンドも大胆に取り入れ、サウンドの深みが一段階増しました。
ラッパーBIMをフィーチャーした「Daydream Believer」は、タイトなビートと緊張感のあるラップの掛け合いが生み出す異質な一曲で、これがアルバム全体のアクセントになっている。全9曲、26分。短いけれど濃密な、No Buses史上もっともポピュラーに寄った作品と言っていいでしょう。
同年、恵比寿LIQUIDROOMでのワンマン公演もソールドアウトさせています。
海外進出本格化と体制変更(2023〜2024)
2023年3月、GU and beautiful peopleのコラボムービーのテーマ曲として「Eyes」をリリース。近藤が作詞・作曲だけでなく、MVの監督・撮影・編集まで担当。完全に彼の作家性が全方位で発揮されるようになってきます。
2024年2月にはShibuya Spotify O-EASTでのワンマンをソールドアウト。そして2025年、香港・台湾・韓国・モンゴルでの海外公演を成功させました。アジアツアーを本当にやる日本のインディーバンドは意外と少なくて、ここで彼らは一段上のステージに上がっています。
8月にはヒプノシスマイクへの楽曲提供(「Andante」)、12月には結成期からの盟友・後藤晋也が脱退、という激動の1年。
4thアルバム『NB2』(2025)
2025年4月、3年振りとなる4thアルバム『NB2』をリリース。
後藤脱退後の新体制で制作された最初のフルアルバムで、トラックリストは全10曲。「Uni」「Our Broken Promises」「Slip, Fall, Sleep」「Inaho」「Bloom」「Hope Nope Hope」「Eyes+」「I’m Your…」「Kaze」「Them Us You Me」。
結成期のニュアンスを今の自分たちの視点で捉え直すような意識で作られた一枚で、シンプルで骨太なバンドサウンドに原点回帰しつつ、ここ数年の内省的な作風も確実に継承している、成熟と初期衝動の絶妙なバランス。
5月に東京・名古屋・大阪のリリースツアーを敢行し、全公演を成功させました。
なぜ海外で先に見つかったのか
ここが今日一番書きたかったところ。
No Busesが海外で先に評価された理由は、アルゴリズム、音楽性、そして偶然の三位一体だと思っています。
アルゴリズムの偶然
まず、2018年の「Tic」のMVが南米でバズった件。これは明らかにYouTubeのレコメンドアルゴリズムが、「Arctic Monkeys好き、The Strokes好き、インディーギターポップ好き」のタグがついた南米リスナーに対して、文脈の近い楽曲としてこの動画を推していった結果です。
当時の南米はインディーロックの受容層が非常に厚く、USやUKのシーンへのアクセスも積極的。そこに英語詞で歌う、見たことのない東洋人のバンドのMVが流れてきて、「ん、この音、めっちゃ好きな系統じゃん」と引っかかった。この偶然は、配信時代だからこそ起きた現象です。
音楽性の”翻訳不要性”
No Busesの音は、国を問わず2000年代インディーロックを通ってきた人間にはストレートに刺さる言語で鳴っています。
歌詞が英語であること、メロディの構造が洋楽準拠であること、ギターの音作りがUSインディー/UKガレージ直系であること。翻訳を必要としない音楽として、そのまま海外の耳に届く。
これは、日本独自の歌謡曲的なエッセンスを押し出してくる多くのJ-POP/J-ROCKバンドが世界でブレイクするのに時間がかかるのと対照的です。No Busesは最初から、世界の耳にダイレクトに届く語彙で話していた。
でも、「日本人っぽさ」が残っている
ここが面白いところで、完全に洋楽を真似ているだけなら海外の人は興味を持たない。No Busesの場合、サビに出てくるメロディの泣きや、コード進行の湿度、音の余白の取り方に、どうしようもなく日本的な感性が残っている。
海外リスナーのコメントを読んでいると、「洋楽っぽいのにちょっと違う、この”違い”が良い」という趣旨のものがかなり多い。この「ちょっと違う」感覚こそが、彼らの武器なんです。
仏Rolling Stoneに取り上げられ、NMEが新譜情報を英語で記事化し、アジア各国でライブをソールドアウトさせる。これ全部、偶然のバズからの積み上げじゃなくて、音楽性の土台がグローバルだったから起きたこと。
入門者におすすめの3枚(+1枚)
ディスコグラフィーが増えてきたので、どこから聴けばいいか迷う人向けに独断と偏見で選びます。
『Boys Loved Her』(2019)
1stフルアルバム。No Busesを知りたいならまずこれで間違いないです。
例のバズ曲「Tic」はもちろん、「Rat」「Untouchable You」「Ill Humor」など、初期の代表曲がほぼ全部入り。ガレージロックのエッジとメロディのポップさが最もバランスよく同居していて、結成期のピュアな衝動が音に刻まれています。
何回でも言うんですけど、この音の瑞々しさ、初期衝動の記録として本当に価値がある。後年の作品から遡ると「昔は軽かったな」と感じるくらい軽快で、でもその軽さこそが彼らの第一の魅力だった。
『No Buses』(2021)
2ndアルバム。初期No Busesと現行No Busesをつなぐ重要な一枚。
サウンドのレイヤーが一気に厚くなり、トリプルギター体制とキーボード、打ち込みを駆使した空間的な音像に移行。「Alpena」「Playground」など、空気の湿度が上がった楽曲が並びます。
『Comedown Machine』期のStrokesが好きな人、Tame ImpalaやParcelsあたりを掘っている人には特に刺さるはず。初期のエッジが好きだった人には最初戸惑いがあるかもしれないけれど、何度か聴いているうちに「これはこれで全然No Busesだな」と馴染んでいく、そういう深みのあるアルバム。
『Sweet Home』(2022)
3rdアルバム。一番ポップでキャッチー、初めての人にも勧めやすい一枚。
全9曲26分というコンパクトさもあって、するっと最後まで聴き切れる。BIMをフィーチャーした「Daydream Believer」、疾走感のある「In Peace」、メランコリックな「Home」、どれも粒が揃っていて捨て曲なし。
海外メディアNMEにも記事化された、海外リスナーに”新作”として刺さった最初のアルバムでもあります。3rdにして円熟と冒険が両立している、バンドの一つの到達点。
『NB2』(2025)
4thアルバム。後藤脱退後の新体制で作られた最新作。いまの彼らが気になるならこれ。
原点回帰的なバンドサウンドと、ここ数年の内省的な作風が接続されていて、シンプルなのに深い、という独特の佇まい。「Hope Nope Hope」「Them Us You Me」あたりは、新生No Busesの行き先を示す試金石のような楽曲。
初期の軽快さを期待して聴くと少し重く感じるかもしれないけれど、ここには近藤大彗というソングライターが10年かけて辿り着いた音楽観の蓄積が詰まっています。
No Busesの何が特別なのか
最後に、個人的に思うNo Busesの特別さを書いておきます。
“日本のインディーバンドが世界で見つかる”という新しいルート
J-POPが世界で戦うために必要だった”翻訳”や”カバー”のプロセスを、彼らは最初からスキップしていました。英語詞で、洋楽の語彙で、最初から世界基準で鳴らしていたから、YouTubeのアルゴリズム一発で南米にまで届いた。
これは、BABYMETALや藤井風、Creepy Nutsのような”日本語の異物感で勝負する”世界進出とはまったく違うルートで、もっと静かで、もっと草の根で、もっと音楽的な純度で世界に届いていく道筋を示してくれている。いま似たルートを辿ろうとしている日本のインディーは多いけれど、その源流のひとつがNo Busesです。
流行に左右されない作家性
近藤大彗という人は、本当にブレない人で、彼の作家性がバンドを10年近く引っ張っている。Cwondoでの打ち込み、No Busesでのバンドサウンド、楽曲提供、MVの自主制作。表現手段は多彩なのに、どこにも”迎合”の匂いがしない。
シティポップブームにもネオソウル回帰にも全然乗らず、ただ自分の聴きたい音を鳴らし続けている。結果としてそれがグローバルに通用している、という事実が何より雄弁。
体制変更があっても止まらない
結成期からの柱だった後藤が脱退しても、ドラマーが何度か入れ替わっても、バンドは止まっていない。止まらないどころか、その度に音が変化してアップデートされている。
これ、バンドをやったことがある人には分かると思うんですけど、メンバーチェンジのたびに失速するバンドは山ほどある中で、No Busesは毎回それを脱皮のきっかけに変えている。この柔軟さとタフさは、近藤大彗の作家性の強さに支えられているんでしょう。
おわりに
「日本で売れる前に海外で見つかってしまった日本のインディーバンド」という、2010年代後半以降の配信時代特有の現象を体現している、No Busesの話を書きました。
今日の話でちょっとでも気になった人は、とりあえず「Tic」のMVをYouTubeで検索してみてください。2分ちょっとのチープでポップな、でも妙に忘れられない映像と音。これを観て何かが引っかかったら、あなたはもうNo Busesの世界の住人です。
その後に『Boys Loved Her』を頭から最後まで通して聴く。1時間かからない。そのあとで『No Buses』を、そのあとで『Sweet Home』を、そして最新作『NB2』を聴く。この順番で、一人のソングライターの10年間を追体験できます。
2025年11月には渋谷クラブクアトロでの年内ラストワンマン「1_1 22222」も成功させ、新体制のNo Busesは今も現在進行形で動き続けています。
日本のバンドシーンを、静かに、でも確実に世界と接続している一組。
No Buses、ぜひ今から追いかけてください。
ではまた。

