メロコアは日本だけの専売特許じゃない──韓国・台湾・他アジアの推しバンドを紹介
メロコアの話をすると、日本人はほぼ反射的にHi-STANDARDとかdustboxとかlocofrankみたいなバンドの名前が出てくる。それはそれで当然なんだけど、実はアジアの他の国にも、Hi-STANDARDで青春やられた連中がガッツリ存在していて、それぞれの土地で独自に育ったメロコア/メロディック・パンクのシーンが普通にある。
普段ぜんぜん紹介されないから、検索しても英語サイトかBandcampのコメント欄しか出てこない。なんとも勿体ない。
今回は、自分で実在を確認できた範囲で、韓国・台湾・他アジア(東南アジア中心)から各5組ずつ、合計15バンドを並べていく。「お、これ日本のメロコア好きなら絶対ハマるやつ」っていう精度で選んだつもり。
韓国編:男も女もちゃんと暴れている国
韓国のパンクシーンは80年代後半〜90年代に始まって、Skunk Labelの周辺にメロディック系・ハードコア系・Oi! 系が並列で育ってきた。日本との交流も多い。
1. GUMX(검엑스)── 韓国メロディック・ポップパンクのゴッドファーザー
ソウルの3人組。1998年に「Gum」として結成、2002年に「GumX」に改名。韓国のロックバンドとして史上初めてフジロックフェスティバル(2003)に招待された、ガチで歴史的な存在。Vo/GtのLee Yongwon(이용원)を中心に、軍役による空白を挟みながら20年以上続いている。
サウンドはHi-STANDARDとBad Religionの中間あたり、それを乾いた東アジアの空気で仕上げた感じ。1stアルバム『What’s Been Up』、2nd『Green Freakzilla』、3rd『Old』はいずれも日本リリース版もあって、入手難易度はそんなに高くない。Yongwonはこの後、よりロック寄りのYellow Monsters、ストレートなパンクのVancouver、そして後述するSonic Stonesと、メロディック・パンクの解像度を上げ続けている。韓国メロコアの全貌を一人で見せてくれる人、というのが正確な紹介。
2. …Whatever That Means ── ソウルのシーン全部を回している夫婦
ソウルのメロディック・ポップパンク・バンドで、JeffとTrashの夫婦が中心。Alternative Pressに「韓国音楽シーンのポップパンクの顔」と評された。
ポイントはこのバンドがライブ運営やレーベル運営、Thunderhorse Studios経営まで含めて、ソウルのパンクシーン全体のハブになっていること。Club Spot、Ruailrock、Club SHARP、Thunderhorse Tavernといった現場と密に動いていて、海外バンドの招聘もここを通ることが多い。2014年のドキュメンタリー『Us and Them: Korean Indie Rock in a K-Pop World』にもがっつり登場している。
「バンドやりながらシーンを耕すタイプ」が好きな人、絶対ハマる。
3. Drinking Boys and Girls Choir(DBGC)── 大邱(テグ)からの男女混成スケート・パンク
大邱を拠点にするスケート・パンク・トリオで、2013年結成。Meena Bae(Ba/Vo)、Myeong-jin Kim(Dr/Vo)、Megan Nisbet(Gt/Vo)の3人。3人全員が歌い、3人全員が酒を飲み、3人全員がスケートする、というバンド名そのままの構成。
「Sum41とNOFXと、大邱の90〜00年代ハードコアパンク/インディーロックに影響を受けた」とプロフィールに明記してあって、保守的な大邱からあえてソウルに出ず、現地のシーンを育てる側に回っているスタンスも筋金入り。LGBT Pride運動にも積極的で、2021年のアルバム『Marriage License』はBandcamp DailyやSPINで激賞された。Otoboke Beaverと欧米共同ツアーを回るレベルまで来ている。
代表曲は「Obody」「National Police Sh!t」「I’m a Fucking McDonald’s」、と曲名からして手加減なし。
4. 1TON ── ソウル発、日本メロコアと血が繋がってる3ピース
2011年7月結成、ソウルの3ピース・メロディック・パンク・バンド。表記は「1TON」(원톤、ウォントン)。録音は韓国でやって、マスタリングは日本で仕上げるというプロダクションを最初から徹底していて、出音が完全に邦楽メロコアの質感と地続き。
ドラマー No Hyun Min(노현민)のプレイが圧倒的で、Korean Indieのレビュアー曰く「日本のパンクロックの、あの狂気のポリリズム感」を体現している。Hi-STANDARD系の頭打ち高速ビートに、その場で半拍ズラしてくる手数の多さが乗っかってきて、聴けば聴くほど「これ韓国のバンドが普通にこれ出してくるの!?」と顎が外れる。
メンバー構成はTaesub(=ベース)を含む3ピース。Yellow MonstersのドラマーJaeHyuk(=Choi JaeHyuk、元Delispice、元Omega3)に「これ絶対聴いとけ」と布教されて広まった、というシーン内導線も筋が良くて、結局Lee Yongwon周辺のソウル・メロコア・コミュニティと血が繋がってるところまで含めて完璧。
2014年7月のデビューEP『Tiny Old Tape』(全9曲、うちIntroを除いた8曲)が、いまだに「韓国メロコア入門の決定盤」と語り継がれる傑作。続く2016年のフルアルバム『Make The One Tone』(全14曲)は、Tiny Old Tape期の楽曲を再録しつつ新曲も加えた事実上の集大成。
代表曲は『When I Was Young』(イントロが爆速、ボーカルだけハーフタイムで乗ってくる構成、これでドラムの異常さに気づく)、『Missing Memories』『Tonight』『Map of Heart』『Tiny Old Tape』『FB』。後年シングルでリリースされた『Nothing Lasts Forever』『Monologue』も2016年版で収録済み。
唯一の難点が、サブスクとBandcampでの配信がほぼ無くて、CDを買うか韓国の音楽サイトを使うしかなかったこと(取材当時)。逆に言えば、ここを掘る労力をかけられる人だけが辿り着けるバンドでもあって、それがまた愛おしい。Hi-STANDARDとELLEGARDENとlocofrankが好きな全人類に薦めたい。
5. Riot Kidz ── ホンデ発、ELLEGARDEN直系の英詞ポップ・パンク
2011年、ソウル・ホンデ(弘大)で結成された4人組ポップ・パンク・バンド。ELLEGARDENとBlink-182を直で吸い込んだような疾走感が特徴で、全曲英詞という思い切りの良さも含めて、日本のメロコア・リスナーが「あ、これは話が早い」と感じるド本命。
メンバーはSID(Vo/Gt)、G(Gt/Vo)、Cho Hui-joo(Ba、2014年加入)、Ko Tae-hee(Dr)の4人。SIDとGはガチで高校の同級生、GとKo Tae-heeは警察服務(韓国の兵役の一形態)で出会った先輩後輩、というめちゃくちゃ韓国的なバンド結成秘話を持つ。元ベースのChanyaも高校の同窓だったけど方向性の違いで2014年に脱退、現在のラインナップは10年以上ずっと固定。
シングルを出し始めたのは2014年からで、2015年12月22日にMirrorball Music経由でリリースされたフルアルバムが現時点での代表作。Simple Planのキャッチーさ(でも嫌味は無い)+初期Green Dayの作曲度胸、と評されることが多くて、米New Noise Magazineには「もしアメリカで誰もが知っているべき韓国パンクバンドが1組あるとしたら、それはRiot Kidzだ」とまで書かれている。
入門は『Fahrenheit』。これ1曲聴けばRiot Kidzの設計図が全部わかる。さらに掘るなら、GUMXのLee Yongwonをゲストに迎えた『Nightmare (Feat. LEE YONG WON)』は、本記事の1番目で紹介したGUMXとの世代を超えた接続が起きていて、聴きながらニヤッとできる。他にも『STEREOTYPES』『Out of Town』『PART OF ME』『A WEEK』『HUSH』『Dear My Empire』『YES MAN』『CHANT』など、捨て曲がない。
ライブの評判もすこぶる高くて、2020年にソウルのHukez Studio がライブ配信スペースを立ち上げた際、こけら落としの第一弾アーティストに選ばれたのがRiot Kidzだった。シーンからの信頼の厚さ、伝わる話。
台湾編:政治もスケートも全部入り
台湾のパンクは1988年戒厳令解除直後のLTK Commune(濁水溪公社)あたりから始まって、メロディック・パンク側の進化はだいたい2000年代から。音楽がそのまま政治に直結する国だから、メロコアの中にも社会性が滲んでるのが特徴。
1. 滅火器 Fire EX. ── 太陽花学運の歌を書いたメロディック・パンクの巨人
2000年、高雄(カオシュン)結成。Sam(Vo)、Orio(Gt)、Pipi(Ba)、KG(Dr)の4人。台湾語(閩南語)と中国語、たまに英語・日本語を混ぜたメロディック・パンク。
2014年の太陽花学運(ひまわり学生運動)で、立法院を占拠した学生たちが彼らの『Goodnight, Taiwan』を流し続けたことから依頼を受けて『島嶼天光(Island’s Sunrise)』を書き下ろし、それが運動の事実上の国歌になった。同曲は第26回ゴールデン・メロディ・アワードで「Song of the Year」、バンド自身も2020年に「Best Band」を獲得。2024年にはSXSW Austinに出演。ベスト盤『無名英雄(Stand Up Like a Taiwanese)』(2019)は、台湾現代音楽史の必読書みたいなアルバム。
リーダーのSamが2024年末、台北の新ライブハウスSUB LIVEの共同オーナーになっていて、シーンの未来そのものを背負ってる。
2. 胖虎 punkhoo ── ガチで日本メロコア勢と並走している3ピース
2003年結成、台湾のMelodic Punk三人組としてはほぼ第一指名。BENN(Gt/Vo/作曲)、SEADOG(Ba)、Chicken(Dr)。初期はアメリカン・ポップパンクから始まり、徐々にリズム強くアレンジ緻密な”日本メロコア”型のMelodic punkへシフト。
ここがいちばんアツいんだけど、彼らはlocofrank、the band apart、GOOD4NOTHING、Good Morning Americaといった日本メロコアの主要プレイヤーと普通に共演・対バンを重ねている。2014年のミニアルバム『反轉未來』では1ヶ月20都市のアジアツアー。2020年『前方的路』。2021〜23年は中華職棒(CPBL)・味全ドラゴンズの年間テーマソングを3年連続担当。ガチでlocofrank脳の人は刺さるはず。
3. Noise Book ── 桃園発の純度高めSo-Cal型スケート・パンク
桃園(タオユエン)を拠点にする若手バンドで、Taipei Timesに「So-Cal skate punkに強く影響された」と紹介されている。台湾には政治派(LTKラインの後継)と非政治派(ブリンク/グリーンデイ系の”Happy Punk”)の二極があるんだけど、Noise Bookは明確に後者寄り。NOFX、Lagwagonの匂いが直で来る。
国内のシーンが小さいぶん、彼らみたいに「シンプルに技巧と疾走感で殴る」タイプのバンドが少ないので、貴重。
4. 透明雜誌 Touming Magazine ── 解散済み、けど絶対外せない
2006年結成、2013年解散の台北のバンド。洪申豪(Vo/Gt)、張盛文(Gt)、唐世杰(Dr)、林書緯(Ba)。厳密にはエモ/インディー寄りのパンクだけど、初期のメロディック・パンク的疾走感は完全にメロコアの文脈で、台湾だけでなく中国・日本でも熱狂的に支持された。
Number Girlとブッチャーズと初期Hi-STANDARDを掛けたみたいな質感、と言えば日本のメロコア畑の人にも届くはず。解散したからこそ伝説化したタイプで、いまサブスクで聴き直すと驚くほど古びてない。
5. 普通隊長 Captain Ordinary ── ワンパンマンと火氣音樂が育てた、高雄の正統後継
2016年に現体制に改名・再出発した、高雄(カオシュン)の3ピース・メロディック・パンク。佳維(Vo/Gt)、東燁(Ba)、峻瑋(Dr)の3人組。バンド名は『ワンパンマン』の埼玉先生の必殺技「普通拳(マジ殴り)」が由来で、「見た目は普通だけど、実はめちゃくちゃ強い」を自任している。実際そうなんだから困る。
サウンドは正統派のメロディック・パンクで、シンプルな歌詞と温かいメロディーで真っ直ぐ殴ってくるタイプ。「現実」と名付けられた海で溺れてる魂を一個ずつ拾い上げにいく、みたいな作風で、ファーストアルバム『愛與勇氣 LOVE&COURAGE』はライナーが熱い。
そしてこの記事的にめちゃくちゃ大事なのが、彼らの流通元が滅火器 Fire EX.の運営する火氣商鋪(Fire On Shop)だということ。つまり高雄→高雄、Fire EX.の正統な弟分として育てられているわけで、ここで台湾セクションの1番目(Fire EX.)と5番目(普通隊長)が見事に20年の地続きで繋がる。同じくTRASHのギタリスト林頤原は彼らをこう評している:
「前の世代の台湾パンク巨頭の代表が滅火器と胖虎なら、この時代の代表のリストには絶対に普通隊長の名前が入る」
これ以上の推薦文ある?って感じ。
日本との接点もすでに濃くて、2024年には『Freedom NAGOYA』『PUNK IN SUMMER』という日本のメガ・パンクフェス2連戦を完走している。公式サイトのドメインが「captainpu.ryzm.jp」(ryzm = Japanese music site)になっている時点で、Japan攻略の本気度が伝わってくる。
代表曲は『寂寞歌 Lonely Song』『打氣歌 The Sound of Captain Ordinary』『重新出發 Restart』『You Will Be Alright』、新しいところで2025年の単曲『Tiny Me, BIG Dream』、そして擊沈女孩のJonをfeatした『Taipei Hates Punk』──「俺は何かそんなに下劣な人間か?こんなクソみたいに生きないと気持ちよく過ごせないのか?」と歌詞が始まる、その日の午後に1年分の怒りを2分に圧縮したらしい1曲。タイトルが既に勝ってる。
胖虎 punkhoo(本記事の2番目)とは2025年に共演ツアーも回っていて、台湾メロコア新旧の橋渡しを彼ら自身が現在進行形で担っている。Fire EX.の遺伝子と、胖虎の隣で育った3ピースの感覚、両方を継承した本命中の本命。
他アジア編:東南アジアのメロコアは想像の3倍熱い
正直、東南アジアのメロコアシーンの厚みは、日本人の想像をはるかに超えている。特にインドネシアとマレーシアは、国民レベルで「自国産メロコア」を消費する文化がある。
1. Closehead ── インドネシア・バンドゥンのメロディック・パンク
1997年1月18日、バンドゥン結成。LAMLAM(Vo/Ba)、AID(Gt)、IJAN(Dr)。インドネシアにおける初期メロディック・パンクの代表格で、20年以上ずっと現役。
サウンドはNOFXとMillencolinの間あたり、それをインドネシア語のキャッチーなフックでくるんだ、まさに教科書的なメロコア。Endank Soekamtiと並んで、現地で「melodic punk」と言ったらまずこの2バンドが返ってくるくらい定番。
2. Superman Is Dead(SID)── バリ島の声明書きパンクロック
1995年、バリ島・クタ結成。Bobby Kool(Vo/Gt)、Eka Rock(Ba)、Jerinx(Dr)。Green DayとNOFXに影響を受けて始まり、後にロカビリー要素も入れたソーシャル・ディスタンス系へシフト。
Indonesian band initially invited to Warped Tour USAという、東南アジア・パンクとしては破格の経歴を持つ。代表曲『Kuat Kita Bersinar』『Sunset Di Tanah Anarki』『Jadilah Legenda』などは、社会問題(教育、貧困、SARA問題)を真正面から扱いつつ詩的にまとめる、彼らだけの芸風。「メロコアでデモる」のお手本。
3. No Distance ── マレーシア・マラッカの正統派NOFXフォロワー
2012年、歴史都市マラッカで結成。Popeye(Ba/Vo)、Rizal(Dr)、Adek(Gt)、Emy(Gt)の4人。EP『Some Unexpected Journey』(2018)からは、NOFX/Lagwagonの遺伝子を真っ直ぐ継いだメロディック・スケートパンクが炸裂する。
マレーシアのポップパンク/スケート・パンク・シーン自体がここ10年でかなり育っていて、Half-Asleep、Trophy Knives、Tobs & Kroniといった同志バンドと一緒に動いているので、「マレー語と英語のチャンポンで疾走するNOFX」が好きな人は他のバンドも芋づる式に発見できる。
4. Plainsunset ── シンガポール・ポップパンクの礎
1996年(資料によっては1992年)結成、シンガポール。シンガポールでもっとも影響力のあるバンドの1つで、ポップ・パンクという言葉では収まらない熱量のシンガロング・アンセムをひたすら書いてきた。
2006年のアルバム『The Gift』は同国インディー史の里程標的な1枚で、10周年に再録EPを出したり、現地の他バンドにカバーされたりしている。マレーシア、香港、フィリピン、ニュージーランド、中国までツアーしてきた、東南アジア・パンクの巡礼ルートを切り拓いた側のバンド。「シンガポールのメロコア」と聞いてピンと来ないなら、まずここから。
5. Half-Asleep ── マレーシア各地から集まったポップパンクの長距離ランナー
クアラルンプール、Sungai Petani、セレンバンと、メンバーの居住地がバラバラなまま続けているマレーシアのポップパンク・バンド。The Wkndが「マレーシア・ポップパンク勃興の最長距離走者」と評する通り、活動歴の長さがまず偉い。
12曲入りアルバム『Bangun』(2018前後)を機にマレーシア国内+台湾までツアー。BBS Paramoreフォロワー的なツヤのあるコーラスワークが特徴で、いわゆるWANIMAライン以降の感情ポップパンクが好きな人には特に刺さる。
まとめ──アジアのメロコア、ちゃんと聴いてあげようよ
15バンド並べて改めて思うのは、メロコアって本当に「ローカルが育てる音楽」だなということ。
韓国はソウル+大邱で気骨のあるDIYパンクが育ち、台湾は政治と社会運動と隣り合わせのメロディック・パンクが進化し、東南アジアは「自国産メロコアを国民が普通に聴く」生態系を持っている。日本のメロコア・リスナーがこの周辺を知らないまま暮らしているのは、控えめに言って機会損失だと思う。
それぞれの国にそれぞれのシーン構造があって、それぞれのバンドがそれぞれの土地の言葉と感情で疾走している。サブスクで一発検索すれば全部聴ける時代に、わざわざ国境引いて聴かない理由はもう無い。
とりあえず今日は、Fire EX.の『島嶼天光』とDBGCの『Obody』とClosehead適当な曲を続けて流してみて欲しい。「同じ音楽だ」って思うはずだから。
ではまた。

