待たされた。とにかく待たされた。前作『Cocoon for the Golden Future』が2022年。そこから約3年半、神戸が生んだラウドロックの怪物、Fear, and Loathing in Las Vegas(通称ベガス、FALILV)がようやく8枚目のフルアルバム『StandBy』を投げつけてきた。2026年5月20日、ビクターのゲッティング・ベター・レコーズからのリリースだ。

正直、身構えていた。この3年半、ベガスはタイアップ仕事を大量にこなしてきた。アニメ『忍者と極道』のED、コベルコ神戸スティーラーズのチームソング、超RIZIN.3のテーマ、パチスロ曲、RAISE A SUILENへの提供曲のセルフカバー、西川貴教とのコラボ曲のオリジナル版。つまりこのアルバム、既発曲の寄せ集めになる危険性を最初から孕んでいた。全10曲中、書き下ろしの完全新曲はごくわずか。これはアルバムと呼べるのか、それともシングル詰め合わせのお歳暮なのか。その一点を見極めるつもりで、僕は再生ボタンを押した。

アルバム全体の総評

先に結論を言う。これは「アルバム」としては歪だ。だが「ベガスの現在地」としては圧倒的に正しい。

このバンド自身が認めている通り、本作は一つの世界観で貫かれたコンセプト作ではない。シングルカットされた楽曲の集合体だ。しかもバラードは一切なし。緩急の「緩」を意図的に捨ててきた。だから通して聴くと、ひたすら殴られ続ける。ピアノとシンセと超高速ツーバス、MinamiのクリーンボイスとSo(スゥ)のシャウトが目まぐるしく入れ替わる、あの「ベガス様式」が10曲ぶっ続けで押し寄せる。胃もたれする人はするだろう。

だが、ここが重要なんだが、寄せ集めなのに散漫に聞こえない。なぜか。全曲が「ベガス以外の誰にも作れない」という一点で貫かれているからだ。タイアップという他人の都合で書かされた曲ですら、最終的に全部ベガスの色に染め上げてしまう。この異常な作家性こそが、寄せ集めを一枚の作品として成立させている。歪だが強い。それが『StandBy』だ。

これまで7枚のフルアルバムがすべて11曲だったのに対し、本作は初めて10曲。数字にも「詰め込みすぎない」意志が出ている。

Overwrite

先行配信された開幕曲。文句なしだ。タイトル通り、過去の自分を「上書き」してくる宣言のような一曲。イントロのシンセが炸裂した瞬間、3年半のブランクなど幻だったと思い知らされる。掴みとして完璧。これは刺さる。

Energy Overflow

西川貴教とのコラボ曲のバンド単独版。原曲を知っていると、いかにベガスが自分たちの音に変換したかがわかって面白い。エネルギーが溢れる、というタイトルに偽りなし。ただ、2曲目でもうこのテンションだと、後半の体力配分が心配になる。実際その予感は当たる。

Fist for the New Era (Album Mix)

超RIZIN.3のテーマ。格闘技のテーマだけあって、拳を突き上げたくなる直球のアッパーチューン。アルバムミックスで音の輪郭がくっきりした。ライブ映えは全曲中トップクラスだろう。わかりやすい。わかりやすすぎて、逆に少し物足りなさも残るが。

Dive in Your Faith (Album Mix)

パチスロ曲。だが侮るな、これがかなり良い。信仰に飛び込め、という大仰なタイトルを、疾走感で強引に納得させてくる。メロディの起伏が本作の中でも屈指で、Minamiのクリーンパートが映える。タイアップ曲でここまで書けるのは反則だ。

Drown Out the Noise and Push Through the Trash

RAISE A SUILENに提供した曲のセルフカバー。長いタイトルだが、内容は痛快。ノイズをかき消してゴミを突き破れ、という攻撃性が全開だ。提供曲だけあってキャッチーさとテクニカルさのバランスが絶妙。これは効いている。

Interlude

中盤に置かれたインタールード。ここでようやく一息つける。10曲ノンストップの殴打の中で、この小休止の設計は正しい。ただ、もう少し実験的でもよかった。無難にまとめた感が否めない。惜しい。

Until You Die Out

『忍者と極道』ED。ここからアルバム後半の本気ゾーンだ。アニメタイアップらしい高揚感と、ベガス特有のカオスが同居する。「お前が死に絶えるまで」という物騒なタイトルを、なぜか爽快に聴かせてしまう。この矛盾がベガスの魔法だ。

Beautiful Things

書き下ろしの新録曲。ここに来て新曲を置いた判断が絶妙だ。既発曲で温めた体を、新しい血で一気に加速させる。美しいものたち、というタイトルの割に音は獰猛。この落差が心地いい。埋もれがちな8曲目にこの一撃を仕込んだのは、構成上の勝利だ。

Song of Steelers (Album Mix)

神戸のラグビーチームのチームソング。応援歌だけあって、とにかく熱い。地元神戸への愛が滲む。ただ、正直に言えば用途がはっきりしすぎていて、アルバムの流れの中では少し浮く。単体では最高、文脈では微妙。ここは評価が割れる。

Who I am

ラストは新録曲。「自分は何者か」という原点回帰のタイトルで締めるセンス。3年半の空白を経て、それでも自分たちは自分たちだと言い切る。この曲があるからこそ、寄せ集めだったはずのアルバムが「自己証明の書」として着地する。締めにふさわしい一撃だ。

良かった点

最大の美点は、タイアップ曲の寄せ集めという最悪の条件を、作家性一つでねじ伏せた点だ。誰が何のために発注した曲だろうと、最終的に全部ベガスになる。この一貫性は驚異的だ。加えて、Album Mixによる音の底上げ。既発曲が配信で聴いた時よりも明確にパワーアップしている。手抜きがない。そして新録曲(Beautiful Things、Who I am)を後半の要所に配置した構成力。寄せ集めを「物語」に変える職人技だ。

物足りなかった点

一方で、コンセプトアルバムを期待した人には肩透かしだろう。バラード不在、緩急の欠如で、通して聴くと単調に感じる瞬間がある。特に前半3〜5曲目は強度が近く、もう少しカラーの振れ幅が欲しかった。それと、これは贅沢な不満だが、完全新曲がもっと聴きたかった。3年半待った身としては、書き下ろしの割合の少なさに一抹の寂しさが残る。次は新曲だけのアルバムで殴ってほしい。

どんな人に刺さるか

ベガスの既存ファンには当然刺さる。というか必聴だ。この3年半の集大成なのだから。同時に、ラウドロック入門者にもいい。タイアップ曲が多いぶん、どこかで耳にした曲から入れる。アニメ、格闘技、ラグビー、どの入り口からでもベガスの世界に飛び込める設計になっている。逆に、じっくり練られた一枚の物語を求める人には向かない。これは物語ではなく、火力の見本市だ。

評価

7点/10点

楽曲単体の水準は高い。8点、9点級の曲もある。だが「アルバム」という総合芸術として見たとき、寄せ集めゆえの構成の歪さと単調さが最後まで足を引っ張った。だから7点。ただしこれは減点法の7点であって、失望の7点ではない。むしろ「この条件でよくここまでまとめた」という感嘆を含んだ7点だ。完全新曲で固めた次回作なら、軽く9点を狙える。それだけの地力を、この歪なアルバムはかえって証明してみせた。

締め

3年半、待たされた。その答えが「寄せ集め」だったことに、最初は落胆しかけた。だが聴き終えて残ったのは、不思議な安堵だった。ああ、ベガスはまだベガスだ、と。どれだけタイアップに引っ張り回されても、最後の一音まで自分たちの音を明け渡さなかった。『StandBy』というタイトルは、たぶん「待機」じゃない。「いつでも行けるぞ」という構えの宣言だ。次はきっと、新曲だけを抱えて殴りに来る。そのときのために、こっちも準備しておく。スタンバイだ。

ではまた。