the bercedes menz──全曲を武器の名前で揃えた異常者たちが、メジャーで本当にやりやがった
Wikipediaを2回消されたバンドの話をしよう。
the bercedes menz。素顔も素性も非公開、自称「ハードコアJ-POPバンド」という意味不明な肩書きを掲げ、際どいオマージュと攻めた表現で各界隈を引っ掻き回してきた連中だ。極めつけは、2度削除されたWikipediaに業を煮やして、自前で「ベルペディア」なる百科事典サイトを立ち上げたこと。普通やるか、それを。
そんな異端児がVAPからメジャーデビューした。その1作目が、この『weapons』だ。全9曲、収録曲のタイトルが全部「武器の名前」で統一されている。knife、pile bunker、鉈、morning star……コンセプトアルバムというより、もはや悪ふざけの域。だが結論から言う。この悪ふざけは、悪ふざけの顔をして本気で殴ってくる。賢くて、危なくて、笑えて、そして妙に美しい。今期、一番「振り切れてる」一枚だ。
アルバム全体の総評
まず、このコンセプトの強度に唸る。全曲タイトルを武器で揃える——一歩間違えれば中二病の様式美で滑り倒すこの縛りを、こいつらは様式美のまま暴力に変換してきた。タイトルが武器なら、中身も武器でなきゃ筋が通らない。その筋を、ちゃんと通している。
音は3ピースとは思えない情報量だ。狂気的に手数の多いドラム、表情豊かに動き回るベース、軽やかなギター、そこに気だるげなボーカルが乗る。バラバラの要素が脳をバグらせながら、なぜか奇跡的に噛み合う。その上、轟音の隙間から極上にロマンチックな、日本的な旋律美が顔を出す。暴力と叙情、悪ふざけと美意識、その同居がこのバンドの正体だ。
ただし、武器で全曲を揃えたコンセプトの強さは、裏を返せば「全曲が同じ檻の中」でもある。一発の異常な強度はあるが、9曲をかけて世界が広がっていく快感は、少し犠牲になっている。そこは正直に書く。
1曲ごとの感想
1. knife
ナイフ。一番原始的で、一番近距離の武器を1曲目に置く構成が正しい。いきなり懐に刃を突きつけてくる開幕だ。このバンドの「気だるいのに鋭い」という矛盾した魅力を、最短距離で叩き込んでくる。掴みとして容赦がない。これは刺さる。
2. pile bunker
パイルバンカー。実在の武器ですらない、フィクションの杭打ち兵器。ここでバンドの本性が出る。「ハードコアJ-POP」を名乗る連中が、ガチの武器の中にこういうオタク的ロマン兵器を平然と混ぜてくる。MVでバンドの演奏シーンが初登場したという曰く付きの曲でもあり、ライブで爆発するタイプだろう。中二の魂を持ったまま音を暴れさせている。
3. 鉈
ここで漢字一文字、「鉈」。英語の武器名が並ぶ中に、突然ぶち込まれる土着的な刃物だ。この語感の落差が効いている。洗練された兵器じゃなく、山で薪を割る、生活に密着した暴力。日本的な旋律美をこのバンドが持っていることを思えば、この泥臭い一文字をここに置く意味は大きい。並びの中の異物として機能している。
4. morning star
ドラマ「夫を殺したはずなのに」OP。モーニングスター、あの棘付き鉄球の武器だ。物騒なドラマタイトルと物騒な武器名の符合が出来すぎている。タイアップ曲なので間口は広めに作られているはずだが、このバンドの場合「間口を広げる」がそのまま「もっと殴る」になりかねない。タイアップで毒が薄まるか、毒のまま茶の間に侵入するか——後者であってほしい。
5. knuckle duster (weapons mix)
映画「ヒグマ!!」タイアップ、鈴木福がMV出演で話題になった曲の新ミックス。メリケンサック、つまり拳に巻く武器だ。既発曲をアルバム用に混ぜ直してここに置くということは、アルバムの流れの中で再定義したい確信があるんだろう。ただ、ミックス違いの再録は「オリジナルでよかった」となるリスクと常に隣り合わせだ。weapons mixと銘打った以上、この並びでこそ映える音になっているかが問われる。ここは賭けだ。
6. ice pick
アイスピック。複数のレビューが「マイクリレー」に言及している一曲だ。3ピースのはずなのにマイクを回す、その編成を裏切る瞬間にこのバンドの面白さが詰まっている。氷を砕く細い刃のように、ちくちくと言葉を刺し合う構成なら、コンセプトと音が完全に一致する。アルバム中盤の変化球として効いている。
7. nail hammer
釘抜きハンマー。武器というより工具で、ここにきてテーマが「殺傷」から「破壊・解体」へ少しずれる。建設現場の道具を武器の列に並べる感覚——日常に潜む暴力性、という解釈もできる。地味なタイトルだが、9曲の中での役割は「日常への接続」かもしれない。ここでメロディが弱いと作業BGMに堕ちる危うさもある。
8. rifle
2月のワンマンで初披露され、好評だった一曲。ライフル、ここで初めて「飛び道具」が出てくる。近接武器で殴り続けたアルバムの終盤で、急に射程が伸びる。距離を取った冷静な暴力、という質感の転換点だ。ライブ先行で鍛えられた曲だけあって、音源でも完成度が高いはず。終盤の山場だ。
9. pistol
ラストがピストル。そして複数レビューが「ゴスペル風コーラス」に言及している。武器で揃えたアルバムの最後に、最も人を殺める道具の名前を冠しながら、最も神聖なゴスペルを鳴らす——この倒錯が、たまらなく美しい。暴力の果てに祈りを置く構成は、コンセプトアルバムの締めとして満点だ。引き金を引く瞬間に賛美歌が流れる、その退廃と荘厳。締めとして、ずるい。
良かった点
コンセプトを最後まで裏切らなかったこと。全曲を武器で揃える縛りを、ネタで終わらせず、音の暴力性とちゃんと接続しきった。最後の「pistol」をゴスペルで締める倒錯まで含めて、一本の筋が通っている。それから、3ピースとは思えない音の密度。手数過多のドラムと動き回るベースが、軽やかなギターと気だるいボーカルと噛み合わない——その噛み合わなさ自体を快感に変える設計は、相当に頭がいい。轟音の中から日本的な旋律美が立ち上がる瞬間の色気も、このバンドにしかない武器だ。素性を隠す胡散臭さすら、コンセプトの一部として機能している。
物足りなかった点
武器という強烈な縛りが、世界の広がりを犠牲にしている。一曲一曲の異常な強度はあるが、9曲を通して景色が変わっていく快感は薄い。全部が「武器の檻」の中で鳴っているぶん、聴後感が一枚の絵のように平面的になる瞬間がある。それから、既発曲の比率。knuckle dusterもrifleもmorning starも既にどこかで世に出た曲で、メジャー1作目としての「新曲で殴る」純度は意外と高くない。weapons mixという再録の必然性も、並びの中で完全には証明しきれていない。コンセプトの完成度が高いぶん、その閉じた完璧さが、次への伸びしろを見えにくくしている。尖りきった作品ゆえの、これは贅沢な不満だ。
どんな人に刺さるか
コンセプトの狂気に惚れる人。中二病の魂を捨てきれないまま大人になった人間。tricot、ハバナイ(Have a Nice Day!)、PK shampoo、あのあたりの「変なのに格好いい」を浴びてきた界隈。轟音と叙情、悪ふざけと美意識が同居する音に痺れる人。逆に、素直なメロディと等身大の歌詞を求める人には、この胡散臭さと作り込みは鼻につくかもしれない。だがこのバンドは、鼻につくことすら計算ずくだ。そこまで含めて面白がれる人にだけ、深く深く刺さる。
評価
8 / 10
コンセプトの強度と、それを音の暴力で裏切らなかった完遂力に大きく加点。「pistol」のゴスペルに象徴される、暴力の果てに祈りを置く倒錯した美意識は、今期そう簡単に出会えない。減点は、武器の檻に閉じたことで世界の広がりが犠牲になった点と、既発曲比率の高さ。だが、これは「振り切れた一枚」だ。整っているから高いんじゃない、突き抜けているから高い。名盤の称号に手をかけた、最高に胡散臭くて美しい問題作。
締め
引き金を引く瞬間に、賛美歌が流れる。
それがこのアルバムの正体だと思う。全曲を武器の名前で固めて、轟音で殴り倒して、素顔も明かさず、Wikipediaまで自前で書き直す胡散臭さの塊。普通なら、警戒して終わりだ。こんな仕掛けだらけのバンド、信用ならない。
なのに、最後のpistolでゴスペルが鳴った瞬間、こっちは完全に丸腰にされる。あれだけ武器を並べておいて、最後に差し出してきたのが祈りだったなんて、聞いてない。暴力の名前を9つ並べた果てに、結局このバンドが鳴らしたかったのは、美しさだった。
武器は、誰かを傷つけるためのものだ。でもこいつらは、その武器の名前を借りて、こっちの心臓を撃ち抜いてきた。素性なんて知らなくていい。素顔なんてどうでもいい。鳴っている音が、これだけ危なくて美しければ、それで充分だ。
撃て。何度でも撃ってくれ。その弾が、賛美歌なら。
ではまた。

