「フジロック行ってきたんだけど、山下達郎の前のJames Blakeのとき、グリーンステージに湧いてきた中高年地蔵がマジで邪魔だった」

2025年7月、フジロック直後のXがこの手の苦言で荒れた。山下達郎・竹内まりやがフジ初出演という歴史的瞬間の裏で、ファンの一部の場所取り行為がトレンドに。「山下達郎は実在した!!!」って歓喜のポストの真横で、週刊女性PRIMEは「ロックフェス最大級のマナー違反のひとつ」と書いてる。喜びと炎上が同居する温度差、これがいまの夏フェスのリアル。

そして1か月後の8月29日、ラブシャ初日。マキシマム ザ ホルモンとMrs. GREEN APPLEが同じLAKESIDE STAGEで連続出演するという運営のセンスを疑うブッキング。案の定、「ミセスファンの場所取り×ホルモンファンのモッシュ」のガチ衝突が発生。SNSは1日で大荒れ。

つまり2025年は、フェスにおける「地蔵」問題が一気に再燃した夏だった。

ここでね、僕はずっと言いたいことがある。

「ライブ地蔵=迷惑行為」って、まとめ方が雑すぎないか?

地蔵にも種類がある。本当に問題なのは「地蔵そのもの」じゃなくて、地蔵を生み出す別の構造なんですよ。今回はその辺を、13年前の伝説の事件まで遡って、ちゃんと整理してみたい。

まず、「地蔵」って言葉を分解しよう

ネットだと「地蔵」って言葉、全部一緒くたに「迷惑」呼ばわりされがちだけど、実際は3種類くらいに分けられる。

①ワンマン地蔵
ライブ中、ノらず、手も上げず、ただじっと聴いている人。声も出さない。揺れもしない。害は基本ない。本人が満足してるならそれでOK。

②フェス地蔵
お目当てのアーティストの前から最前列を陣取り、その間のアクトには1ミリも興味を示さない人。場所取りのためにシートを敷いたり、椅子を持ち込んだり、座り込んでスマホをいじったりする。これがガチで問題視されているやつ。

③ビジネス地蔵
良い観覧ポジションを占拠してお金で売る犯罪者予備軍。アイドル現場で稀に出没。これはもう犯罪なので別件。

ね?①と②、全然別の話じゃん。

ところがSNSのお気持ち合戦では、「地蔵=迷惑=ライブに来るな」みたいな粗い議論が連発される。この雑さこそが、本当の問題を見えなくしてる。

元祖にして最大の事件——2013年「ミスチル地蔵」問題

そもそも、なぜ「地蔵」がここまで社会に広まったか。全部の元凶はあの夏にある。

2013年8月10日、サマーソニック大阪。

タイムテーブルがエグかった。The Smashing Pumpkins → Mr.Children → MUSE。90年代USオルタナの伝説、日本最大級のバンド、UKロックのスタジアム王者。普通に考えれば洋楽好きにも邦楽好きにも垂涎のラインナップ。

ところが、現場では地獄が起きてた。

ミスチル待ちのファンが、スマパン演奏中から最前列を占拠。シートを敷いてる、椅子に座ってる、ステージに背中を向けてる、スマホをいじってる。ビリー・コーガンが熱演する「Tonight, Tonight」も「Today」も、最前列の客はピクリとも動かない。

ビリー、ブチ切れる。最後にステージから言い放った。

> “Thank you for the warm reception.”
(温かい歓迎をありがとう)

ガッチガチの皮肉。会場の空気は完全凍結。これが後世まで語り継がれる「ミスチル地蔵」事件として、フェス文化のトラウマに刻まれた。

そしてここからが本題。

12年後の2025年、スマッシング・パンプキンズが日本ツアーで再来日した。武道館はソールドアウト、追加公演2本。最高のライブだった——というレポを上げたnoteユーザーによれば、ビリー・コーガンは武道館で深々と何度も頭を下げてたらしい。

そして驚きのエピソード。スマパンのファンがビリーにSNSでメッセージを送ったら、返信が来た。

> 2013年のサマソニのことが、今でも”breaks my heart”(心が痛む)。日本は好きだけど、それを思い出してしまう。

12年だぞ??12年経っても、あの夏はビリー・コーガンの心に残り続けてる。「あの場の地蔵がアーティスト本人を12年苦しめた」——これが、フェス地蔵という行為の本当の重さ。

ちなみに、本当に「ミスチルだけが悪い」のか?

ここでちょっと逆張りしておきたい。

実は、ミスチル地蔵を擁護する声もあった。スマパンファンとして東京公演に行った人のレポによれば、「東京は普通に盛り上がってた」「フェスでは座る人は普通にいる」「あの瞬間だけ切り取られた」って指摘もある。

夏フェスに詳しい音楽ライター・柴那典氏もぴあでこう書いてた。「Twitter+NAVERまとめという当時のSNS構造で、過剰なフレーミングが起きた」と。要するに、SNSの拡声器が事件を巨大化させた側面もあるってこと。

さらに——これは僕も後から知ったんだけど——ミスチルの『Worlds end』はスマパン『Tonight Tonight』の影響を受けた曲で、それを大阪で1曲目に演奏したのは桜井和寿なりのリスペクトの表明だった可能性が高い。桜井さん側はちゃんと敬意を払ってた。届かなかっただけで。

これ、めちゃくちゃ重要な視点なんだよね。「ミスチルファンが悪い」「桜井が悪い」じゃなくて、構造の問題っていう。個人を叩いて気持ちよくなっても、何も解決しない。

2025年——同じ構造の事件が再発しまくってる

で、冒頭に戻る。2025年は地蔵祭りだった。

①フジロック2025 山下達郎・竹内まりや事件(7月)
山下達郎の前のJames Blakeの時間帯から、フジロック慣れしていない中高年が最前線を占拠。週刊女性PRIMEいわく、地蔵をしていたのは「普段フェスに行き慣れていない中高年ファンが多かったのではないか」という分析。山下さんはチケット入手困難なアーティストだから、ワンマンに行けなかった層が「フジロックなら入れる!」と一気に押し寄せた構図。完全にミスチル地蔵と同じ。

②ラブシャ2025 ミセスvsホルモン衝突(8月29日)
LAKESIDE STAGEでホルモン→ミセスという連続出演。ミセスファン(Ringo Jam会員中心)はミセスのため早朝から場所取り、シート敷いて待機。そこにホルモンのモッシュ・ダイブが直撃。ミセスファン「押されて怖かった」、ホルモンファン「場所取りでノリを邪魔された」。SNSは大荒れ、運営は「ステージ配置ミス」と批判される。

両方とも、「フェスというフォーマットを理解していない一部ファン」が事件を生んだって構造。そして両方、当事者のアーティストには直接の責任はない。ファンの行動が、推しの評判を傷つけている。

ちなみにラブシャのときミセスは、急遽撮影OKを発表するという異例のサービスをやって、炎上を最小化しようと努力してた。これ、現場の運営とアーティスト側がリアルタイムで動いた形跡があって、学びの蓄積を感じる。13年前のミスチルとの違いは、ここなんだよね。業界もちゃんと進化してる。

本当の問題は「地蔵そのもの」じゃない

ここで、最初の論点に戻る。「地蔵」を全部一緒くたに迷惑扱いするの、やめないか?

冷静に考えてほしい。ワンマンライブで静かに聴いてる地蔵って、誰の迷惑にもなってない。周りに迷惑をかけない範囲で、自分のペースで音楽を浴びてるだけ。これを「ライブに来るな」って言うのは、逆に押し付けがましい。

5ちゃんねるとかで「地蔵タイプって何でライブに行きたくなるの?」って煽る人いるけど、「映画館でアクション映画を観るとき、踊らないでしょ?同じだよ」で終わる。ライブの楽しみ方を1種類に固定するのは、文化として痩せてる。

実際、ガルちゃんに「B’zのライブで毎回地蔵だけど長年の大ファン」っていうコメントがあって、これがリアル。心の中で爆発的に盛り上がってるけど、それを表に出すタイプじゃない——そういう人は確実にいる。

問題は、①フェスで②場所取りして③前のアーティストに無関心っていう3要素のセット。これが揃ったときに初めて、他のお客さんにも、前のアーティストにも、自分の推しの評判にも、トリプルで迷惑をかける。

地蔵そのものじゃなくて、「場所取り×無関心」のセットがアウトなんだよ。

アーティスト側の本音

じゃあアーティストはどう思ってるのか。これも分かれる。

栗林みな実は2019年12月、Twitterで「お客さまをお地蔵さまにしない(歌を歌えるようになること)」を2020年の目標として掲げた。これに対しては「地蔵を悪者にしてない?」っていう反論もnoteで飛んできた。アイドル/声優ライブとロックライブで、求められる客のあり方が違うっていう議論にも繋がる話。

キュウソネコカミのヤマサキセイヤは、関西学院大学法学部出身で、ヨコタ(同じく法学部)と一緒に「メンバーもお客さんも暴れまくるけど、だからこそ思いやりとマナーを大事に」って明言してる。法律を学んだから生まれた考え方だと。ダイブもモッシュもやるけど、ルールの中でやる——このバランス感覚が、いまのフェスシーンに一番必要なやつ。ちなみにキュウソは夏フェスで関ジャニ地蔵をMCでイジったっていう逸話もある。笑いに昇華するのも一つの解決策。

そしてビリー・コーガンの「12年経っても胸が痛い」発言。最も重い側のリアクション。アーティストってお客さんの反応に想像以上に敏感で、MCで言わなくても深く傷つくっていう。これは演者全員に共通する話だと思う。

で、結論。「地蔵」を雑に叩くのも、全肯定するのも、両方間違ってる

長くなったけど、まとめる。

ライブにおける「地蔵」を考えるとき、3つの区別が必要。

  1. ワンマンでの静観派は迷惑じゃない。むしろ多様な客層がいるのが健全。
  2. ジャンプ系・モッシュ系のジャンル(ハードコア、メタル、ラウド)の前方で棒立ちは別問題。これは本人も危ないから後方に行くのが推奨。
  3. 「フェスでの場所取り×前のアクトへの無関心」は、ガチでアウト。ミスチル地蔵から12年、何度も繰り返されている本当の迷惑行為。

地蔵=悪、という雑な議論は、ワンマンの静観派まで巻き込んで叩いてしまう。それは音楽の楽しみ方の幅を狭める方向に働く。

逆に「地蔵も多様性!全部OK!」も無責任。フェスで前のアクトに無関心な場所取りをすれば、そのアーティスト本人を傷つけ、他の観客の楽しみを奪い、自分の推しの評判まで地に落とす。12年経ってもビリー・コーガンが胸を痛めてるって事実が、その重みを物語ってる。

僕らができるのは、「これはどの種類の地蔵か」を毎回ちゃんと考えること。そして、自分が場所取り側にならないように気をつけること。

新規ファンが推しのフェス出演を見て、「フジロックなら山下達郎が観られる!」「ラブシャならミセスが近くで観られる!」って思うのは自然な感情だ。それ自体は否定されるべきじゃない。ただ、フェスという場のお作法を知ってから飛び込もうよ、ってだけ。

前のアクトもちゃんと観る。座らない、シート敷かない、スマホしまう、リズムに乗ろうとする。たったそれだけで「ミスチル地蔵」も「達郎地蔵」も「ミセス地蔵」も生まれない。

それは推しのアーティストを守る行為でもある。自分のマナーが、推しの評判を作る。これだけは覚えて帰ってほしい。

ビリー・コーガンに「breaks my heart」と言わせない夏を、僕らで作ろうぜ。

ではまた。