ジェッジジョンソン | 「ダウナー」の1曲目が「HAPPY」で、最後が「錆」だ
2部作の後編で、タイトルに【ダウナー】と付いている。
ジェッジジョンソンというバンドは、2004年に『デプス・オブ・レイヤーズ』を【アッパー】と【ダウナー】の2枚組で出した時から、この構造を繰り返している。上げと下げ。表と裏。前編と後編。そして毎回、そのラベルを自分でずらしてくる。
『ストライク・リビルド【ダウナー】』は2018年6月13日リリース。全11曲、52分06秒。品番BWPA-35。前編にあたる『ストライク・リビルド【アッパー】』から約2年ぶりとなる後編だ。
エレクトロ・ロック、ダンス・ロックの先駆けとして知られるバンドが、廃盤になったインディー時代の楽曲を再録音・再アレンジし、新曲を足して組み直す。それが「リビルド」というプロジェクトの趣旨だった。
つまりこれは、過去を掘り返す作品だ。
そういう企画は、だいたいの場合つまらない。だがこの盤には、そう単純に片付けられない歪みがある。
総評 ── 「中二病の先駆け」が、自分の過去を再録音するということ
まず、このバンドの立ち位置を整理しておきたい。
リーダーでボーカルの藤戸じゅにあは、緒方恵美やChouChoといったアニソン方面、坂本美雨などへの楽曲提供やリミックス、竹達彩奈のライヴステージサポート、映画音楽やCM音楽まで手掛けている。バンドというより「プロデューサー集団」を自称しているのも、その実態を踏まえてのことだろう。
そして2004年、まだDTMをライヴシーンに持ち込むのが主流ではなかった時代に、電子音楽とロックを融合させた『デプス・オブ・レイヤーズ』2部作を出している。この先駆性は、いま振り返るとかなり大きい。日本のエレクトロ・ロックの系譜を辿るとき、この盤を無視して話を進めるのは不誠実だ。
その人が、JUNGLE☆LIFEのインタビューでこう言っている。「中二病という言葉ができる前から、僕は中二病だったんです」「そういう意味では、ジェッジジョンソンは中二病の先駆けでもあったんだな」と。
これ、めちゃくちゃ重要な自己申告だと思う。
「オリファント」「Sentinel」「Swan Dive」「Thousands of Brave Word」。この曲名の並びを見てほしい。象牙の角笛、歩哨、白鳥の飛び込み、幾千の勇敢なる言葉。完全に一貫している。そして本人がそれを自覚したうえで、恥じずに続けている。
『ストライク・リビルド【ダウナー】』は、その語彙を10年以上かけて手放さなかった人間が、自分の過去の曲を現在の技術で組み直した作品だ。
だから、この盤の評価はどうしても二層になる。音として今のものになっているか、という層と、企画として必然性があるか、という層。前者は文句なしにクリアしている。後者が、少し弱い。
HAPPY
【ダウナー】の1曲目がHAPPY。この配置は明確に狙っている。アッパー編があるのに、そちらではなくこちらの頭に置いた。上げと下げのラベルを自分で無効化しにいく態度で、2部作という枠組みへの自己ツッコミでもある。ここは刺さる。
ボーン・スピリッツ
1曲目のカタカナ英語からの流れで、2曲目もカタカナ。骨と魂という、これ以上ないほど直球の語彙。アルバムの序盤で、このバンドの言語感覚がどこにあるかを隠さずに提示してくる。逃げていない。
オリファント
アルバム中の最短曲、3分44秒。オリファントは中世の角笛で、ローランの歌に出てくる例のアレだ。この単語をタイトルに持ってくる感覚こそが、藤戸の言う「中二病の先駆け」の中身そのもの。短尺で切り上げているのも効いていて、序盤のテンポを崩さない。
Please、Sister、Kick me
読点で区切った英語という、日本語話者にしか書けない表記。しかも内容は「蹴ってくれ」。ここで初めてアルバムに湿度が入る。3曲目までの疾走から、一段暗いところに降りていく蝶番の役割を果たしている。
Sentinel
5分を超える。歩哨、見張り。中盤の入口にこの曲を置いて、アルバムの視点を「動く側」から「見ている側」に切り替えている。ここまでの4曲とは明らかに温度が違う位置づけだ。
Swan Dive
白鳥の飛び込み。前曲で立ち止まって、ここで飛ぶ。曲名の並びだけで物語が組めるようになっているのは、このバンドの一貫した強みだと思う。ただ、正直に言うと中盤のこのあたりは曲尺が4分半前後で揃いすぎていて、聴いていて起伏を感じにくい。
Ridham M
そしてここからが本作の核心だ。「Ridham M」。rhythmのもじりと思われる造語に、Mというサフィックスが付いている。
02mixedLOUDER
アルバム最長の6分12秒。曲名が完全に作業ファイル名の体裁をしている。02、mixed、LOUDER。制作プロセスの痕跡をそのままタイトルにしてしまう発想は、DTMをライヴに持ち込んだ2004年の彼らと地続きだ。アルバムの重心はここにある。ここが一番好きだ。
Ridham AR
そして7曲目と対になる「Ridham AR」。MとAR。7曲目と9曲目で挟み込み、その間に最長の8曲目を置く。この3曲でアルバムの中心部が三部構成になっている。しかも7曲目が4分44秒、9曲目が4分43秒と、尺までほぼ揃えてある。偶然のはずがない。この設計は見事だ。
Thousands of Brave Word
幾千の勇敢なる言葉。ちなみにWordが単数形である。複数形にしなかったのが意図なのか単なる表記なのかは判断できないが、この不安定さも含めてこのバンドらしい。終盤の助走として機能している。
Rust
ラストは「Rust」、錆。劇場アニメ『PEACE MAKER 鐵』前篇〜想道〜の主題歌で、映画公開と同じ6月2日に先行配信されている。
ここが評価の分かれ目だと思う。
アルバム全体が「過去の曲を組み直す」というコンセプトである以上、最後に置かれるべきは本来「今の曲」だ。その意味でタイアップ曲のRustをラストに据えたのは正しい。しかも曲名が錆。組み直した過去の隣に、時間の経過そのものを名指しした新曲を置いて終わる。
構成として、これは強い。
良かった点
まず、中盤の三部構成。前述の通り、7曲目「Ridham M」と9曲目「Ridham AR」で8曲目「02mixedLOUDER」を挟む配置は、この作品でいちばん頭が良い部分だ。同じモチーフの派生を対に置いて、その間に最長曲を差し込む。アルバムをアルバムとして設計する意志がはっきり見える。
次に、曲名の語彙を一切妥協していないこと。オリファント、Sentinel、Swan Dive、Thousands of Brave Word。2018年にこの語彙で押し通す胆力は、正直かなりのものだ。流行に合わせて言葉を柔らかくしなかった。それは本人が「中二病の先駆け」を自認していることと表裏一体で、要するにこの人は自分の趣味を裏切っていない。
そしてジャケット。前編に続き、イラストレーター/漫画家の鶴田謙二による書き下ろしイラストが使われている。作品外の要素だが、2部作としての統一感を担保しているのはここだ。
物足りなかった点
企画そのものの必然性が、聴き手側に見えにくい。
「廃盤になった過去曲を再録音する」というプロジェクトは、ファンにとっては福音だ。入手不可能だった音源が手に入るのだから、価値は明確にある。だが初めてこのバンドに触れる人間にとっては、どの曲がリビルドでどの曲が新曲なのかを判別する手掛かりが乏しい。ここは惜しい。
もうひとつ、曲尺の均質さ。11曲中、4分台が7曲を占める。最短が3分44秒、最長が6分12秒で、その間にほとんどの曲が固まっている。中盤の三部構成が効いているぶん、それ以外のパートで「ここで景色が変わる」という瞬間が少ない。52分は、この密度だと少し長い。
そして、これはやや意地の悪い指摘になるが、【アッパー】と【ダウナー】に分ける必然性が音から読み取りにくい。1曲目がHAPPYであることを自己ツッコミとして評価した以上、そのツッコミが成立するだけの「ダウナーらしさ」がどこにあるのかは、もう少し明確でもよかった。
どんな人に刺さるか
2000年代の日本のエレクトロ・ロックをリアルタイムで通った人。DTMとバンドサウンドの融合が「珍しかった」時代を覚えている人。曲名に中世の武具や神話の語彙が入っていると反射的に嬉しくなる人。そしてアニソン方面から藤戸じゅにあの仕事を知って、バンド本体に興味を持った人。
逆に、2020年代のインディーの文脈だけで音楽を聴いている人には、たぶん少し古く聞こえる。それは欠点というより、この盤が2004年から一本の線で繋がっているという証拠でもある。
評価
7.5点。
中盤の構成力と、語彙を妥協しない一貫性は高く評価する。ただ、リビルド企画という性質上、作品としての切っ先が鈍っているのも事実だ。これは「バンドの現在地を示す一枚」ではなく、「バンドの過去を整理して現在に接続する一枚」であり、その役割は果たしている。
名盤ではない。だが、資料としても作品としても、ちゃんと必要な1枚だ。
前編の【アッパー】と通しで聴いて初めて完成する構造になっているので、この点数は単体での評価だということも付け加えておく。
締め
「ダウナー」の1曲目が「HAPPY」で、最後が「Rust」。
上げと下げを自分で入れ替えて、最後に錆を置く。過去の曲を磨き直して並べたアルバムの終着点が、錆びるという単語だというのは、皮肉が効きすぎている。
中二病の先駆けを自認する男が、14年前の自分の曲を組み直して、それでもまだ角笛や歩哨の話をしている。趣味を裏切らないというのは、案外いちばん難しいことだ。
ではまた。

