こんにちはmonaです。

みなさん、同じメンバーで35年以上バンドを続けるって、どれくらい難しいことか想像つきますか。

日本のバンドシーンを見渡しても、メジャーデビューから30年以上オリジナルメンバー中心で走り続けているバンドって、数えるほどしかありません。たいてい途中で脱退があり、解散があり、再結成があり、でまた解散する。それがバンドというものの宿命みたいなところがある。

そんな中、1987年の結成からほぼ休むことなくアルバムを出し続け、2025年11月にも通算24枚目のニューアルバムを出し、しかも今が一番脂が乗っているという、物理法則を無視したみたいなバンドがいます。

袈裟を着た坊主頭、和装の三人組、日本語・津軽弁の歌詞、江戸川乱歩から取ったバンド名。見た目だけ見たら「おっ、ジャパニーズ・メタルね」と思うかもしれないんですけど、鳴っている音はもうガチのガチで、英国70年代ハードロックの正統後継者。ブラック・サバスとディープ・パープルとキング・クリムゾンを、青森の土の匂いがする日本語に翻訳したようなバンド──それが人間椅子です。

今日はそんな人間椅子の話を書きます。

人間椅子ってどんなバンド?

人間椅子(にんげんいす、英: Ningen Isu)は、1987年に青森県弘前市出身の和嶋慎治と鈴木研一によって結成された、日本の三人組ロックバンドです。

音楽性を一言で言うと、「ブラック・サバス直系の70年代ブリティッシュ・ハードロック」×「日本文学・怪奇・津軽民謡」。

ギターはひたすら太く、ベースはブリブリに鳴り、ドラムは地を這うように重い。そこに日本語の、それも非常に文学的で怪奇的な歌詞が乗っかってきます。江戸川乱歩、夢野久作、横溝正史、ラヴクラフト、そして仏教思想。こんな素材を全部ぶち込んで、ブラック・サバスのリフで調理しているバンドが他にいるかと言われたら、世界中どこを探してもいません。

バンド名の「人間椅子」も、江戸川乱歩の短編小説『人間椅子』からの引用。結成当時、和嶋が情報誌『ぴあ』で同名のバンドの存在を知って、その場で改名して乗っ取るように名乗り出した、というエピソードも伝説的です。

メンバー紹介

現在のメンバーは三人。いずれも替えが効かない強烈な個性を持った人たちです。

和嶋慎治(わじま しんじ)ギター/ボーカル

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。人間椅子のフロントマンであり、バンドの楽曲の多くを手がける作曲・作詞の中心人物。

細身でインテリ眼鏡、和装姿がトレードマーク。その佇まいからは想像しにくいけれど、弾くリフは完全にトニー・アイオミ直系の重量級。というか、日本で一番サバスのリフを理解している男だと思います。

文学への造詣が深く、歌詞には日本近代文学や怪奇小説のモチーフが惜しげもなく投入される。一方でバイクやソロキャンプが趣味で、YouTubeチャンネル「哀愁のワジマシーン」では一人でテント張って肉焼いてる和嶋が見られます。このギャップがもう最高。

鈴木研一(すずき けんいち)ベース/ボーカル

1966年4月生まれ。和嶋と中学からの幼なじみで、当時からKISSやジューダス・プリーストを聴いていたハードロック少年。

白塗り、坊主頭、袈裟姿という日本人ですらちょっとギョッとするビジュアルでステージに立つけれど、歌うと出てくるのは土俗的で念仏のような独特の低音ボーカル。作曲能力も非常に高く、人間椅子のもう一つの顔と言っていい存在。

ちなみにバンド活動が軌道に乗るまで、なんと23年間も郵便局の配達のアルバイトを続けていたというエピソードがあります。2016年にようやく「晴れて」退職したことを公表していて、これもう人間椅子のストーリーで一番グッとくるやつ。

ナカジマノブ ドラム/ボーカル

2004年加入。人間椅子にとっては4人目のドラマーで、在籍期間はすでに20年を超えています。今の若いファンにとっては「この3人の人間椅子しか知らない」という人が大半でしょう。

リーゼントに色眼鏡、鯉口シャツという昭和のテキ屋みたいな風貌で、和嶋・鈴木が静かなインテリキャラなのに対してナカジマは陽気な江戸っ子気質。社交的な性格を活かしてバンドの窓口役やマネージャー的なポジションも兼任していて、実は人間椅子という船のハンドルを握っているのはこの人だったりします。

ドラマーでありながら作曲もするし歌も歌う。人間椅子では「ドラムが歌う」というスタイルが伝統になっていて、ステージ上では三人全員がリードボーカルを取り合う場面があるのもこのバンドの楽しいところ。

35年以上の不屈のバンド生活

黎明期(1987〜1989)──「いか天」で世に出る

もともと和嶋と鈴木は中学時代からの知り合い。高校では同じバンドを組み、大学進学後の1987年、和嶋が3年生のときに「人間椅子」というバンド名で東京のライブハウス活動を本格化させます。

1988年、大学4年の就職活動シーズン。就職先が見つからずレコード店でブルースの盤を漁っていた和嶋に、これまた就活帰りの鈴木がバッタリ遭遇して、津軽弁で一言。

「和嶋ァ、わ、やっぱり就職やめで、バンドやるごとにしたじゃあ」

(訳:和嶋、俺はやっぱり就職やめてバンドやることにしたから)

この瞬間が、事実上の人間椅子結成と言っていい。この話、何度聞いてもいい話すぎて泣きそうになる。

1989年、TBS系列の番組『平成名物TV いかすバンド天国』(通称「いか天」)に出演。ここで高い評価を獲得し、翌1990年7月、メルダックから1stアルバム『人間失格』でメジャーデビューを果たします。

メジャー時代と低迷期(1990年代〜2000年代前半)

デビュー当初は「いか天出身の色モノバンド」として見られがちで、セールス面でも苦戦します。メルダック、徳間ジャパン、ミディといくつかのレーベルを渡り歩きながら、ドラマーも数回交代。フルタイムで音楽だけで食えるわけではなく、前述の通り鈴木は郵便局の配達を続けていたし、和嶋も家庭教師などで生計を立てていた時期があったそうです。

それでも一枚もアルバムをサボらない。リリースのペースもライブの頻度も落とさない。「バンドを続ける」という、当たり前のようでいて一番難しいことを、この人たちはひたすらやり続けました。

復活のきっかけ(2000年代後半〜2013年)

2004年、現在のドラマー・ナカジマノブが加入して、バンドの音が格段に太くなります。

2012年、ももいろクローバーZのシングル『サラバ、愛しき悲しみたちよ』のカップリング曲「黒い週末」に和嶋がギターで参加。これが若いリスナー層に「なんか人間椅子ってバンドがいるらしい」と知られる大きなきっかけになりました。

そして2013年、オジー・オズボーン主宰のロックフェス『OZZFEST JAPAN 2013』に出演。幕張メッセの巨大ステージで人間椅子が見せたパフォーマンスは、国内外の関係者と観客に強烈な印象を残し、ここが「日本の色モノじゃなくて、ガチのハードロックバンドだ」と見直される大きな転機になりました。

そして世界へ(2019年〜)

2015年、約23年ぶりの東京・渋谷公会堂ワンマンを成功。2019年、30周年記念アルバム『新青年』をリリース。そして同年5月、収録曲「無情のスキャット」のMVをYouTubeに公開。

この「無情のスキャット」が、人間椅子の運命を完全に変えます。

「無情のスキャット」海外バズ事件

2019年5月14日、YouTubeにアップされた「無情のスキャット」のMV。

8分超えの大作で、野外で撮影された朝日の海辺や夕闇の庭園が舞台のドラマチックな映像作品。公開当初から国内のファンには大きな話題になっていたんですが、しばらくすると海外からのコメントが爆発的に増え始めます。

YouTubeのおすすめアルゴリズムが世界中のロック好きにこの動画をレコメンドし始めたらしく、公開から約1か月半の6月26日には再生100万回を突破。以降も右肩上がりで伸び続け、現在は1500万回以上再生されている、もはやモンスター級のMVです。

コメント欄はとにかく熱い。

– 「なぜYouTubeがこの曲をおすすめしてきたのか分からないが、とんでもない音楽に出会ってしまった」
– 「彼が何を歌っているのか全く分からないが、めちゃくちゃカッコいい」
– 「ロックは死んだんじゃない。日本に引っ越しただけだ」
– 「私の人生はこのビデオを見る前と見た後に分けられる」

こういう熱狂的なコメントが、英語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、ありとあらゆる言語で書き込まれていく。レコード会社のスタッフは「サムネイルに映る白塗り・坊主頭で袈裟を着た鈴木のビジュアルが海外の人の興味を引いたのでは」とコメントしていて、それも一理あるんだろうけど、でも最後はやっぱり音がカッコいいからですよ。

そして初の海外ツアー

この流れを受けて、2020年2月、ついに初のEUツアー「NINGEN ISU EU TOUR 2020」が実現します。ドイツ・ベルリン、ボーフム、イギリス・ロンドンの3公演。

ロンドン公演のThe Underworld Camdenでは、「無情のスキャット」のサビ「シャバダバディバアー」をフロアの観客が日本語で大合唱するという、信じられない光景が広がりました。落語をモチーフにした楽曲「品川心中」では、和嶋が模造紙に手書きした英訳テロップを広げて現地ファンに解説するというDIY精神満点のステージも。

3月にはアメリカ・テキサスのSXSW(South by Southwest)2020への出演も決定。しかし、ここでコロナ禍が世界を直撃し、SXSWは中止に。世界進出のモメンタムは、いったんここで足止めを食らうことになります。

とはいえ、「日本の70年代ハードロック継承者」として世界にその名が知れ渡ったのはもう揺るがない事実。現在のYouTube、Spotify、Apple Musicのリスナー層は完全にボーダーレスで、海外の日本音楽ファンの間では「YMO、坂本龍一、人間椅子」が3セットで語られる時代になっています。

入門者におすすめのアルバム5枚

人間椅子は2025年11月時点でオリジナルアルバムが24枚。膨大なので、どこから入ればいいか迷うと思います。独断と偏見で5枚選びます。

『新青年』(2019)──まずはここから

これを最初に聴いてください、マジで。

30周年記念で制作された21枚目のアルバム。例の「無情のスキャット」が収録されているのはもちろん、「地獄絵図」「夜明け前」など、人間椅子の魅力がすべて詰まっている最強の入口アルバム。

音の太さ、リフの濃厚さ、歌詞の文学性、そして三人それぞれがリードボーカルを取る構成のバランスの良さ。「人間椅子2019年版完全体」と言っていい出来で、初心者からコアファンまで満足できる一枚。

『見知らぬ世界』(2001)──名盤中の名盤

古参ファンの間では「人間椅子の最高傑作」に挙げる人が一番多いのがこれ。

「胎内巡り」のお経から始まり、「ダンヴィッチの怪」で終わる構成がもう最高。サイケデリックな香りが全編に漂い、捨て曲ゼロ。ラヴクラフトの「ダンウィッチの怪」を題材にした楽曲は、人間椅子の文学ロックここに極まれりという完成度。

『黄金の夜明け』(1992)──初期の代表作

3rdアルバム。アレイスター・クロウリーの魔術結社の名前をタイトルに冠した、初期人間椅子を代表する一枚。

「幸福のねじ」は今聴いても強烈で、ベースの鈴木が歌う念仏のような低音ボーカルがもうたまらない。1990年代の日本のハードロックが生んだ異形の宝石。

『苦楽』(2021)──バンド史上最もへヴィ

23枚目のアルバム。還暦を目前にした三人が、過去最高レベルに重い音を鳴らしている怪作。

「杜子春」「色即是空」など、仏教的テーマや中国古典を題材にした楽曲が並び、リフの重さが異常。「ベテランになればなるほど枯れていく」の逆を行って、年々音が太く重くなっているバンドって本当に稀有です。近年の作品ならここから。

『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』(2019)──全曲英語歌詞訳付き

ベスト盤。2枚組全25曲というボリュームで、初期から2019年までの代表曲を一網打尽にできます。

このベスト盤のすごいところは、全楽曲の英語翻訳詞がブックレットに収録されていること。海外進出を明確に意識した作りになっていて、「人間椅子を外国人の友達に勧めたい」という人には最適解。

あと、今年2025年11月19日には最新アルバム『まほろば』も発売されたばかり。バンド生活36年目にしてまだ24枚目のオリジナル出してくる、そのタフさよ。

人間椅子の何がそんなに特別なのか

ここまで長々と書いてきましたが、最後に私が思う「人間椅子の特別さ」を言語化しておきたい。

借り物じゃない日本語ロック

洋楽ハードロックを日本語でやろうとすると、だいたいどこかで「英語で歌った方がカッコいい」問題にぶつかる。でも人間椅子はその問題を完全にねじ伏せたバンドです。

日本語の、それも文語的で古風な歌詞を、ブラック・サバスのリフに堂々と乗せて、なおかつそれが違和感なくカッコよく聞こえる。これを35年以上やり続けてきた。海外のファンが「意味は分からないけどカッコいい」と言ってくれるのは、日本語の響きそのものが音楽に溶け込んでいる証拠なんです。

流行に媚びない

デビューから35年以上、音楽的な芯がほとんどブレていない。「いか天」ブームに乗って出てきたバンドの中で、ここまで一貫した活動を続けているバンドは本当に珍しい。

ヴィジュアル系ブーム、メロコアブーム、シューゲイザー回帰、ネオソウル、シティポップ再評価。いろんな流れが来ては去っていく中で、人間椅子はただひたすらブリティッシュ・ハードロックを鳴らし続けた。その結果、35年後に世界が「これだよ」って言ってくれた。

これ、めちゃくちゃロマンがある話じゃないですか?

人間性がいい

SNSで発信される三人のキャラクターが、もう全員愛おしい。和嶋のソロキャンプ、ナカジマの陽気さ、鈴木の郵便局時代の話、全部ひっくるめて「この人たちのバンド、応援したい」って思わせる何かがある。

人間椅子を好きになると、曲だけじゃなくて、「バンドを続けるということ」そのものに対するリスペクトが湧いてくる。売れない時期を23年のバイト生活で乗り越えて、ドラマーを何度も替えながらも止まらず、気づいたら世界で評価されていた。そんな道のりが音に染み込んでいる。

おわりに

もしこの記事を読んで気になった人は、とりあえず「無情のスキャット」のMVをYouTubeで検索して、8分間画面に集中してみてください。それで何も感じなかったら、たぶん縁がなかった。でも一瞬でも「お……?」って思ったら、あなたは確実に人間椅子の世界の住人です。

今ならサブスクで全アルバムすぐ聴けるし、ライブも定期的にやってる。和嶋さんのYouTubeチャンネル「哀愁のワジマシーン」では、日本のロックの至宝が一人で焚き火を眺めている姿も見られます。

35年以上走り続けて、いま世界で再評価されて、それでもまだ新譜を出し続けているこのバンドを、同じ時代に生きて聴けることのありがたさよ。

人間椅子、最高です。

ではまた。