最近、MVチェックしてたらまたコインランドリーが出てきた。

「あ、これコインランドリー系MVだ」「これも蛍光灯の光が反射してる、コインランドリーだ」「これも洗濯機の前で歌ってる、もうコインランドリーじゃん」——3本連続で続いて、さすがにツッコミたくなった。

邦楽MVのロケ地コインランドリーの当選率、高すぎないか?

ちょっと調べてみたら、案の定、すごい場所を見つけた。コアレカ株式会社が運営する「ランドリーサポート」というコインランドリー業界向け支援会社のブログ([https://support.coreca.co.jp/]が、なんとコインランドリーが登場するMVを2026年5月時点で202本以上紹介してる。

202本だぞ。

しかもこのブログ、ただ並べてるだけじゃなくて、毎回ちゃんとロケ地のコインランドリー店舗名まで特定してる。「渋谷区初台1丁目のサンヨーコインランドリー」「八王子市東中野のコインランドリー白い家」「東京スカイツリー押上駅近くのコインランドリーさくらゆ」——もう探偵の領域。

しかも使われてる洗濯機のメーカーまで毎回チェックしてて、「SANYOの乾燥機SDCシリーズが青、黄色、青、と並べられてるのが良い配色」みたいな、洗濯機マニア視点のレビューが普通に入ってる。バンドのロックの話よりコインランドリー設備の話の方が文字数多いMV解説、こんなの初めて見た。

——とにかく、こういうサイトが202本以上MVを紹介できる時点で、邦楽MVのコインランドリー偏重は産業レベルの現象だと言える。

撮影ロケ地検索サイト「撮影NAVI」を見ても、ジャンル分類に「コインランドリー」っていう独立カテゴリがあって、東京近郊だけで21件以上のロケ地が登録されてる。完全に「邦楽MVの定番ロケ地ジャンル」として産業化してる。

まず、邦楽MV「コインランドリー組」の実例を並べてみる

これ書く前に、実際の事例を並べないと話にならないので、思い出せる範囲でリストアップする。

– ポルカドットスティングレイ「テレキャスター・ストライプ」MV(2016)— ボーカル雫が監督。コインランドリーの蛍光灯×演奏シーンの組み合わせは、邦楽インディーMVの基本フォームのひとつを作った


– マカロニえんぴつ「洗濯機と君とラヂオ」MV(2017)— JR大森駅近くの「ミスターランドリー大森店」が舞台。歌詞そのままタイトルもそのまま、女性ダンサー2名が洗濯機の前で踊る。ちなみにロケ地は2019年に閉店してる、合掌


climbgrow「THIS IS」Music Video — 大阪発のロックバンドが、夜のコインランドリーで演奏


ヤングスキニー「コインランドリー」Lyric Video — 曲名がそのまま「コインランドリー」、もう開き直り


– Droopys「コインランドリー」Music Video — こっちも曲名「コインランドリー」、被ってるぞ


テスラは泣かない。「コインランドリー arranged ver.」Lyric Video — お前もか、テスラは泣かない。


レトロリロン「アンバランスブレンド」Music Video


moon drop「ヒメゴト」Music Video


バズマザーズ「スキャンティ・スティーラー」

——もう、誰か止めろよって感じ。「コインランドリー」というタイトルの曲、ぱっと挙げただけで3曲も被ってる。テスラは泣かない。とDroopysとヤングスキニー、たぶんお互いにタイトル決めるとき気づかなかったんだろうな。「あ、被った…」って後で知ったときの空気感、想像しただけで面白い。

そしてマカロニえんぴつに至っては、タイトルに「洗濯機」って単語入れた上で、MVも普通にコインランドリーで撮ってる。直球すぎる。「最低限の生活には/洗濯機と君とラヂオ」って歌詞も入ってて、もう全部洗濯機の話。

ここまで多いと、もはや「邦楽MVがコインランドリーで撮る」のは個別の演出判断じゃなくて、ジャンル的な型になってる。じゃあなんでこんなに型として定着したのか。

理由を分解していく。

理由①:単純に、撮影の都合がいい

最初に身も蓋もない話から。

コインランドリーって、MV撮影に必要な条件をほぼ全部勝手に満たしてくれる。

  • 24時間営業:深夜帯は客がほぼ来ない、貸切撮影できる
  • 蛍光灯で均一に明るい:照明機材なしでも被写体が綺麗に撮れる
  • 白い壁・白い洗濯機:背景が整理されてて、何置いても画になる
  • 整然と並んだ洗濯機:シンメトリー構図、フレーム作りやすい
  • ガラス張り:店内と外、街と人の対比がワンショットで撮れる
  • ロケ地代が比較的安い:1時間2〜3万円が相場

撮影クルーの目線で見ると、コインランドリーは「映画スタジオの簡易版」みたいなもの。建物のセットを組まなくても、すでに「世界観」が整っちゃってる。

しかもインディーバンドのMV予算って、メジャーアーティストみたいに何百万円もかけられないのが普通。100万円以下、下手したら30万円くらいでMVを完成させなきゃいけないケースも多い。そういう時、「コインランドリーで撮る」って選択肢は、コスパの神なんですよ。

冷静に言うと、ロックバンドが街のスタジオを5時間借りるより、深夜のコインランドリーを2時間借りる方が圧倒的に安く、画も持つ。

ちなみにランドリーサポートのブログを読んでて知ったんだけど、ガラクタ「相変わらず、愛変わらず」のMVで、ギタリストが洗濯機の上に座ってギターを弾いてるシーンがあって、これが業界的にはちょっと炎上してた。「乾燥機の丸ドアを開けて中に腰掛けてるポーズで撮影された写真のSNS投稿は、批判炎上を招きました」とまで書かれてる。コインランドリーは公共設備だぞ、機材を傷めないでくれ、という業界からの真っ当な意見。撮影の都合の「裏」には、コインランドリーオーナーの忍耐があることも、覚えておきたい。

理由②:蛍光灯の青白い光、これが「あの空気」を勝手に作る

撮影上の都合だけじゃない。コインランドリーの蛍光灯、あれが邦楽MVの美学にバチクソ合う。

蛍光灯の色温度って5000K前後で、自然光より少し青寄り。これが何を生むかというと——寂寥感、孤独、ノスタルジア、深夜、現実感。

夕焼けや暖色系の照明だと「あったかい思い出」「日常の幸福」みたいな空気になっちゃう。コインランドリーの蛍光灯は逆で、「ちょっと感情の温度が低い、でもそれが居心地いい」という、邦楽MVが大好きな空気を勝手に作ってくれる。

これ、コンビニの照明にも近い。コンビニも邦楽MVのロケ地として頻出するけど、それと同じ家系。「夜の街にぽつんと光ってる、誰でも入れて、誰もいない場所」という照明。

そしてコインランドリーの照明は、コンビニより若干「ボロい感」が出るのもいい。新品のLEDコンビニじゃなくて、やや黄ばんだ蛍光灯のコインランドリー——これがエモい。あの「商店街の端っこにある、20年前から営業してます感」が、画にレイヤー1枚分の物語を勝手に乗せてくれる。

back number「ハッピーエンド」のMVがロケ地にした渋谷区初台1丁目のサンヨーコインランドリーは、ランドリーサポートいわく「2012年のフリー素材写真サービス『パクタソ』にも登場している、時が止まったような空間」。画に時間の重みが乗ってる。新築のコインランドリーじゃ出ない味だ。

理由③:洗濯機の窓と、回転する衣服

これが個人的に一番面白いと思ってる要素。洗濯機のドラム部分、あれは天然の「動く絵画フレーム」。

ガラスの円形の窓の向こうで、衣服がぐるぐる回ってる。これだけで画として完結してる。MVカットの「インサート(つなぎカット)」として最強。歌の合間に「洗濯機の窓→演奏者の表情→洗濯機の窓→外の街灯」って繋ぐだけで、なぜか映画っぽくなる。

しかも回転の速度が、音楽のテンポと相性が良い。BPM120〜140くらいの邦ロックなら、洗濯機の回転とリズム的に合う瞬間が必ず出る。撮影編集でそこを狙ってカットを合わせると、音楽が映像と物理的に共振してるような錯覚が生まれる。

レトロリロンの「アンバランスブレンド」MVを観ると、まさにこの「洗濯機の回転=楽曲のテンポ」のシンクロ的な使い方が見える。バズマザーズの「スキャンティ・スティーラー」も、コインランドリーの空間そのものをリズムの一部として使ってる。

洗濯機は、MV監督にとってのドラマーなんだよ、ある種の。

理由④:「待ち時間」と「洗う」というメタファー

ここからが本題で、文化的・心理的な理由。

コインランドリーって、人が「ぼーっとしてる」唯一の現代的な場所だと思うんだよね。

スマホ時代、人はどこにいても情報を消費してる。電車でも飯屋でも歩きながらでも、画面を見てる。でもコインランドリーで洗濯が終わるのを待ってる30分、なぜかスマホ見ながらでも、心は半分どこか別のところに行ってる。

なんでか。洗濯機の音と振動が、瞑想的な効果を生んでるから。低周波のゴロゴロ音、衣服が回転するリズム、蛍光灯の微細なチラつき——これ、ある種のアンビエント・ミュージック的な環境音楽を作ってる。

つまりコインランドリーは、現代において希少な「強制的な内省タイム」なんですよ。

そしてこれ、邦楽MVの主人公が必要としてる空間そのもの。失恋した、夢が破れた、街でなんかあった、夜中に眠れない——そういう感情を抱えた登場人物が、ぼーっとできる場所。コインランドリーは、「悩める若者を物理的に置いておける場所」として完璧。

しかも「洗う」という行為自体がメタファーの宝庫。

  • 服を洗う=感情を洗う=過去をリセットする
  • 汚れた衣服=傷ついた心
  • 回転=時間の循環
  • 乾燥=再生

ヤングスキニーの「コインランドリー」とDroopysの「コインランドリー」、両方とも歌詞は「孤独」「夜」「あの人を想う」みたいな邦楽の王道感情。コインランドリーという場所が、すでにそのテーマを物語ってくれるから、歌詞と映像の補完性が異常に高い。

ランドリーサポートのブログにも示唆的な一節があった。「コインランドリーの仕上がり待ちは感情の余白を預ける時間」——これ、業界の人がMVに対して書いてる文。コインランドリー業界の人ですら、自分たちの場所を「感情の余白」と捉えてる。MV監督が殺到するのもわかる。

理由⑤:「公共空間で個人的なものを扱う」という奇妙さ

もうひとつ、コインランドリーには他のロケ地にない独特の性質がある。

それは、「公共空間で個人的な所有物を扱う」こと。

下着、Tシャツ、シーツ——本来なら他人に見られたくないものを、公共の場で、知らない人と並んで処理してる。この「半・私的、半・公的」の中間性が、MVに使うとすごく効く。

人前で歌うのも、ある種「公共空間で個人的な感情を晒す」行為。だから歌うシーンとコインランドリーで衣服を晒すシーンは、メタ構造的に同じ。

あと、コインランドリーは「他人がいるかもしれない」という緊張感もある。マカロニえんぴつのMVで女性ダンサー2人が踊ってるとき、視聴者の脳の片隅で「これ他のお客さんいたらどうするんだろう」っていう疑問が生まれる。この微妙なソーシャルな違和感が、画にスパイスを加えてる。

スタジオで撮ってたら絶対出ない手触り。

理由⑥:日本の街風景としてのリアリティ

統計的な背景も書いておくと、日本のコインランドリー店舗数は2003年に約1.6万店、2018年に約2万店、現在は2万4千店超まで増えてる。コンビニほどじゃないけど、全国どこの住宅地にもある、現代日本の標準風景。

これ、若者の生活実態とリンクしてる。単身世帯の増加、ワンルームマンションの普及、共働き家庭の増加、布団乾燥のための大型洗濯機需要——こういう社会変化で、コインランドリーは現代の若者の日常に組み込まれてる場所になった。

つまりMVでコインランドリーを使うのは、「リアルな現代日本の若者の生活」を描く近道でもある。海外ドラマのバーシーンが「アメリカの日常」を表すのと同じ機能を、日本ではコインランドリーが担ってる、ってこと。

ポルカドットスティングレイの雫さんがインディー時代の「テレキャスター・ストライプ」でコインランドリーを選んだのも、「これがリアルな日常だから」っていう判断がたぶんあったと思う。スタジアムで歌う「夢の場所」じゃなくて、「みんなが行ったことある場所」で歌う方が、共感の入口が広い。

理由⑦:先輩がやってたから後輩もやる、という様式美

最後にちょっとシニカルな観察を。

ここまで増えると、もはや「コインランドリーで撮る」こと自体が「邦楽MVのジャンル文法」になってる。

新人インディーバンドが初めてMV撮るとき、監督と相談する。「ロケ地どうしよう?」「コインランドリーいいんじゃない?」「あ、いいですね」——これで決まる。過去の蓄積があるから、ハズさない選択肢として真っ先に出てくる。

これ、悪いことじゃない。様式美として完成してる。歌舞伎の見得みたいなもので、「またコインランドリーかよ」と思いつつも、嫌じゃない。むしろ「あ、今回もコインランドリーね、いいね」みたいな安心感まである。

ただし、たまに「コインランドリー以外で勝負しろよ」と言いたくなる新人もいる。コインランドリーで撮れば必ず一定のクオリティが担保される——そのコモディティ化が、逆に独自性を消してる側面もある。

「初MVがコインランドリーじゃないインディーバンド」、現代において意外と希少種。

結論:コインランドリーは、邦楽MVの「聖地」である

整理すると、邦楽MVがコインランドリーで撮りまくる理由はこう。

  1. 撮影の都合がいい(24時間、蛍光灯、白い壁、ガラス、安い)
  2. 蛍光灯の光が「あの空気」を作る(寂寥感、深夜感、ノスタルジア)
  3. 洗濯機の窓と回転が、画として強い(インサートカットの神)
  4. 「待ち時間」と「洗う」がメタファーとして優秀(感情のリセット)
  5. 「公共空間で個人的なものを扱う」奇妙さ(歌うことのメタ構造)
  6. 日本の標準風景としてのリアリティ(若者の日常)
  7. ジャンル文法として定着してる(様式美)

これだけ理由が積み上がってると、もう「邦楽MV=コインランドリー」は揺るがない。今後も新人インディーバンドがデビューするたびに、必ず2割くらいはコインランドリーMVを出してくる。

そしてコアレカ株式会社のランドリーサポートのブログ([https://support.coreca.co.jp/]の「ミュージックビデオ」タグの数字も、203本、204本、と毎月増え続けるだろう。あのブログが300本に到達する日、僕は祝杯を上げたい。コインランドリー業界からの目線で書かれた音楽評論、あれは日本の音楽メディアが持ってない貴重なリソースだ。「洗濯機マニアによるMVレビュー」というジャンル、もっと評価されるべき。

で、僕の予想では、2030年までに「邦楽MVに登場したコインランドリー」というだけで、あの店舗の聖地巡礼が観光産業として成立する。SixTONESの「こっから」のロケ地(栄湯コインランドリー、にがおえコインランドリー3号店)がすでに聖地化してるように、マカえんの「ミスターランドリー大森店」が2019年に閉店してファンが嘆いたように、コインランドリーは音楽ファンにとっての「あの場所」になっていく。

そして来年も再来年も、「俺、新しいバンド見つけたんだ。MVがコインランドリーで撮ってて」っていう会話が、日本のどこかで毎日交わされる。

たぶんそれは、もう、邦楽の文化的DNAなんだと思う。

ではまた。