2016年7月、Shout it Outは4人組バンドとしてメジャーデビューした。平均年齢19.5歳。10代限定のフェス「未確認フェスティバル2015」で3,254組の頂点に立った、当時の日本でいちばん注目されていた10代バンドである。

その2か月後、9月3日のライブを最後に、ギターの露口仁也とベースのたいたいが同時に脱退。

理由が、不仲でも、方向性の違いでもない。燃え尽きたのだ。

露口は、メジャーデビューに向けた制作が一通り終わったとき、自分の中で何かが燃え尽きてしまった、自分にとってはこのメジャーデビューがゴールだったのだと感じた、という趣旨のことを語っている。たいたいも、結成当初から目標にしてきたメジャーデビューとワンマンライブという夢が叶うタイミングで、プロとしてこの先を歩くことが自分にとってキラキラした景色に思えなくなった、要するに完全燃焼です、と書いている。

高校1年で始めたバンドが、4年半でゴールに着いてしまった。

そして残された山内彰馬(Vo/Gt)と細川千弘(Dr)の2人が、サポートメンバーを迎えながら作ったのが、この1stフルアルバム『青年の主張』だ。2017年3月8日、ポニーキャニオンよりリリース。品番PCCA-04474、全12曲、約40分。

つまりこれは、青春が終わった人間を見送った側が作った、青春のアルバムである。

そこがこの作品の、いちばん残酷で、いちばん面白いところだ。

総評 ── タイトルが先にあった、という事実の重さ

まず押さえておきたい事実がある。

アルバムのインタビューで山内は、『青年の主張』というタイトルは曲より先に決まっていた、と明かしている。表題曲ができてからアルバム名を付けたのではなく、最初からこのテーマがあった。

これは相当に重要だ。

「青年の主張」という言葉には、独特の手垢がついている。学校の集会で、真面目な生徒が壇上で読み上げる作文。あの空気だ。ダサい。正直、ダサい。

そのダサさを承知のうえで、20歳の男がアルバムのタイトルに据えた。しかも曲より先に。

ここに、このバンドの本質がある。

彼らは一貫して、等身大であることを武器にしてきた。それも、無自覚に等身大なのではなく、意識的に等身大を武器にしていく気概がある、というのが当時から指摘されていた点だ。

だから『青年の主張』でいい。というより、それしかない。

構成も明快で、収録12曲の内訳は、インディーズ時代の再録が4曲、シングル2曲、そしてアルバムのための新曲6曲。ドラムの細川は、1stフルアルバムはこれから自分たちを知る人が最初に聴く作品になるはずだから、再録曲も入れた、この1枚で「Shout it Outってこういうバンドだよね」と分かるものにしたかった、という趣旨を語っている。

戦略として、極めて正しい。正しいのだが、後述する通り、その正しさがこのアルバムの限界にもなっている。

そしてプロデュースは、メジャーデビューシングルから引き続きSUPER BEAVERの柳沢亮太。表題曲の編曲はShout it Outと柳沢亮太の連名になっている。

大人になれない

1曲目のタイトルが「大人になれない」で、10曲目が「青年の主張」。この配置がアルバムの設計図そのものだ。なれない、から始まって、主張する、で着地する。

そして冒頭の一節が、大人に対する拒絶の言葉から始まる。1曲目の1フレーズ目でこれをやるのは、掴みとして完璧だ。ここは刺さる。

新曲組で、アルバムのテーマである「大人になる怖れ」の側を最も強く担当している。

17歳

インディーズ時代の再録。しかも山内が実際に17歳のときに書いた曲だという。

2曲目にこれを置いた意味は大きい。1曲目で20歳の葛藤を出しておいて、すぐに17歳の自分に戻る。時間が行ったり来たりする構成で、アルバム全体が「少年から青年へのグラデーション」として設計されていることが、ここで明示される。

なお、この曲を収めたシングルはタワーレコードの新人発掘レーベルFIRE STARTERから数量限定でリリースされ、1か月で完売している。その伝説の曲が、ようやく普通に手に入るようになった1枚でもある。

雨哀

再録組。読みは「あめあわれ」あるいはそれに類する表記だと思われるが、正式な読みは確認できなかった。

漢字2文字のタイトルは、このアルバムの中では異質だ。他が「大人になれない」「青春のすべて」といった口語的な言葉で構成されている中で、ここだけ字面が硬い。序盤で一度、温度を変える役割を果たしている。

道を行け

新曲組。命令形のタイトル。前曲の湿度から一転して、背中を押す側に回る。

このバンドの歌詞は「聴く人の背中を押したい」という方針が明確で、それは初期から一貫している。その方針がいちばん素直に出ているのがこの曲名だろう。素直すぎる、という見方もできる。

DAYS

TVアニメ『DAYS』のエンディングテーマ。2016年のシングル曲。

ここが重要なのだが、この曲はメンバー脱退が決まった後に初めてレコーディングされた曲だ。細川は、メンバーが抜けて初めて録音した曲がこれで、山内の決意が入った歌詞になった、と語っている。山内自身も、あえて新しいことをせず、今までやってきたことを見つめ直した、という趣旨のことを述べている。

2人になった直後に、あえて変えない、という選択をした曲。それがアルバムの5曲目に置かれている。

夜間飛行

新曲組。アルバム唯一の、風景を切り取ったタイプのタイトルだ。

「大人になれない」「道を行け」「青春のすべて」と、主張と決意の言葉が並ぶ中で、この曲名だけが情景に振れている。ちょうどアルバムの折り返し地点で、一度だけ視点が外に向く。この配置は良い。

トワイライト

再録組。前曲が夜間飛行で、次が薄明かり。6曲目と7曲目で時間帯が連続している。

再録曲をここに置いたことで、中盤に一度、インディーズ時代の空気が戻ってくる。アルバムの呼吸として機能している。

青春のすべて

メジャーデビューシングル。柳沢亮太プロデュース。

そして、この曲名が後にとんでもない意味を帯びることになる。2018年6月、解散を発表した山内は、このバンドが自分の青春のすべてだった、という趣旨のコメントを残している。

デビュー曲のタイトルが、そのまま解散の言葉になった。当時は誰も予想していなかったはずだ。

影と光

再録組4曲目、そしてラスト。前曲の「青春のすべて」という大きな言葉の直後に、影と光という二項対立を置く。

表題曲へ向かう直前の助走として、明暗の両方を提示しておく。構成としては教科書的だが、機能している。

青年の主張

表題曲。作詞作曲は山内彰馬、編曲はShout it Outと柳沢亮太。3分2秒。

ここがアルバムの頂点だ。

歌詞の内容には踏み込みすぎないが、方向性だけ書いておく。この曲は、大人を敵として攻撃する曲ではない。大人もまた人間で、実は怖がっていて、それでも何もない顔をして戦っているのだ、という認識に到達する曲だ。

これが決定的に重要で、細川も、10代の頃は大人への反骨精神で書いていた山内が、いま「青年の主張」という曲を書けたことに意味がある、という趣旨を語っている。

1曲目で「大人になれない」と拒絶した人間が、10曲目で大人の側の事情に気づく。10曲かけて、敵が敵でなくなる。

アルバムとして、これ以上ないほど正しい構造だ。ここは本当に良い。

MVは、エリザベス宮地が監督し、須賀健太が出演している。

エンドロール

3分56秒。表題曲で着地したあとに、エンドロール。

映画が終わったあとに流れるあれだ。つまりこのバンドは、10曲目でクライマックスを迎えたことを自覚したうえで、その後の2曲を「終わったあとの時間」として設計している。

灯火

そして最後が灯火。

大人になれない、から始まって、主張して、エンドロールが流れて、最後に小さな明かりが残る。

派手な着地ではない。むしろ地味だ。だがこのバンドの誠実さは、たぶんこの地味さのほうに宿っている。爆発して終わらない。小さく灯して終わる。

良かった点

まず、構成。

1曲目「大人になれない」から10曲目「青年の主張」への到達、その後の「エンドロール」「灯火」による着地。この設計は、20歳のバンドが作る1stフルアルバムとして極めて完成度が高い。

そして、テーマの一貫性。

「大人になる怖れ」と「大人になる勇気」という二面性が、全編を通して途切れない。前者を強調した1曲目から、後者を肯定する表題曲まで、感情のグラデーションが崩れない。

再録4曲を混ぜているにもかかわらず、これが成立している。17歳のときに書いた曲と、20歳になってから書いた曲を並べても、テーマが破綻しない。それは山内彰馬という書き手が、10代の頃からずっと同じ問題と格闘し続けてきたことの証明でもある。

もうひとつ、ドラムの細川の証言も興味深い。新曲たちが今までの自分たちの音楽とかなり雰囲気が違っていて、正直、最初はどうなんだろうと思った、と。曲の良し悪しではなく、こういう方向がアリなのかナシなのか、という迷いだったという。それでも彼はデモの方向性に寄せず、自分が思うShout it Outの音楽性をアレンジ段階で組み込んでいった。

2人しかいないバンドで、片方が疑問を持ちながら、逃げずに手を入れた。その結果が12曲に残っている。

物足りなかった点

歌詞は分かりやすく、比喩は少なく、言いたいことがそのまま言葉になっている。それは武器だが、同時に、聴き手が入り込む余白を消してもいる。

実際、当時のリスナーからも、悪く言えば一本調子、という指摘が出ていた。アルバムとして最後までダレない作りにはなっているが、12曲を通して受ける印象の振れ幅は決して大きくない。

そして、これはもっと構造的な問題なのだが、再録4曲とシングル2曲で半分を占める編成が、この作品を「ベスト盤的な入口」に寄せすぎている。

新規リスナーへの配慮としては満点だ。だが、既にこのバンドを追ってきた人間にとって、アルバムでしか到達できない場所は新曲6曲だけに限られる。1stフルアルバムとしては真っ当な判断だが、その真っ当さがこの作品の切っ先を少しだけ鈍らせている。

ここは惜しい。

もうひとつ。バンドの音として、2人体制であることの必然性が作品から読み取りにくい。サポートメンバーを迎えて丁寧に作られているぶん、欠員の傷が音に出ていない。それは技術的には正解だが、この時期のこのバンドにしか鳴らせない歪みが、もう少し残っていてもよかったと思う。

どんな人に刺さるか

20歳前後の人。あるいは、20歳前後の自分をまだ引きずっている人。

大人になりたくないと思いながら、なれないことに焦っている人。10代のうちに何かを終わらせてしまった友人を見送ったことがある人。そして、フラワーカンパニーズやSUPER BEAVERのような、真っ直ぐに言葉を届けるバンドが好きな人。

逆に、歌詞に多義性や仕掛けを求める人には向かない。このアルバムは、隠さない。隠さないことを選んだ作品だ。

評価

7.2点。

構成の完成度、テーマの一貫性、そして1曲目から表題曲への到達の設計。ここは高く評価する。20歳で、この筋の通し方ができるバンドはそう多くない。

減点は、再録とシングルで半分を占める編成の保守性と、真っ直ぐさが余白を消している点。作品としての強度より、名刺としての機能が勝ってしまっている。

名盤ではない。だが、このバンドの存在証明としては、これ以上ないほど正確な1枚だ。

締め

Shout it Outは2018年8月に解散した。このアルバムの、わずか1年5か月後である。

山内は解散にあたって、10代を終えて2年、音楽の中で「大人になること」というテーマと向き合い続けてきたが、答えは見出せなかった、という趣旨を書いている。そして気づいたのだ、と。Shout it Outは自分の青春と共にあり、自分の青春を体現するために存在してくれていたバンドだったのだ、と。

つまり、このバンドは「大人になること」を歌い続けて、大人になれないまま終わった。

冒頭に戻る。

2016年、2人のメンバーが「メジャーデビューがゴールだった」と言って辞めていった。残った2人は、それでも続けると決めて、このアルバムを作った。

そして2年後、残った2人も終わりを選んだ。

先に辞めた2人と、後から辞めた2人。どちらが正しかったのかは、たぶん誰にも決められない。青春に締め切りがあること自体は、変えようがないからだ。

『青年の主張』は、その締め切りの手前で書かれた作文だ。ダサいタイトルで、真っ直ぐで、余白がなくて、そして二度と書けない。

20歳のときにしか書けない作文というものが、確かに存在する。

聴くなら1曲目から順番に。10曲目で、拒絶が理解に変わる瞬間を見届けてほしい。

ではまた。