「あのバンド? ああ、〇〇のOPの人たちでしょ」

こういう音楽の知り方をする若い世代を、鼻で笑う大人がいる。タイアップでしか音楽を知らないなんて、と。ライブハウスに足を運べ、アルバムを通して聴け、シーンを追え、と。

先に言っておく。笑っている場合ではない。なぜなら、その大人たちの多くも、まったく同じ道を通ってきたからだ。今日は「アニメ主題歌でしか今のロックバンドを知らない世代」が持っている音楽の地図について、その形と、空白地帯と、広げ方を考えたい。

その地図、実は20年前からある

まず歴史の話をすると、アニメ主題歌がロックバンドの入口になる、という現象は、今に始まったことではない。

わかりやすい例がASIAN KUNG-FU GENERATIONだ。2003年にメジャーデビューしたこのバンドは、2000年代に「NARUTO」「BLEACH」「鋼の錬金術師」といった大型アニメの主題歌を立て続けに担当した。「遥か彼方」はNARUTOのOPであり、「リライト」は鋼の錬金術師のOPだった。当時の小中学生にとって、アジカンとの出会いは間違いなくテレビのアニメ枠だったはずだ。「消してリライトして」と叫ぶあの声を、雑誌のレビューではなくハガレンの映像とセットで浴びた世代が、確かに存在する。

つまり、アニメ主題歌を入口に音楽の地図を描き始めた世代は、少なくとも20年前からいた。今の30代の音楽好きの中にも、出発点がNARUTOだった人間は山ほどいる。だから「アニメでしか知らない」ことそれ自体は、恥でも欠陥でもない。地図には必ず、最初の一点がある。それがライブハウスの人もいれば、レコード屋の人もいて、テレビの深夜アニメの人もいる。それだけの話だ。

逆流が起きた2022年

面白いのは、近年この導線が「逆流」を起こしたことだ。象徴的な事件が、2022年10月から12月に放送されたアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」である。

はまじあき原作のこの作品は、極度の人見知りの少女・後藤ひとりが「結束バンド」に加入して成長していく物語だ。だがロックファンを驚かせたのは、その作り込みだった。結束バンドのメンバー4人の名字、後藤・伊地知・山田・喜多は、すべてアジカンのメンバー(後藤正文、伊地知潔、山田貴洋、喜多建介)に由来し、担当パートまで対応している。舞台は彼らが活動していた下北沢で、劇中のライブハウス「STARRY」のモデルは下北沢SHELTER。各話のサブタイトルもアジカンの曲名から取られ、最終話では「転がる岩、君に朝が降る」を劇中バンドがカバーした。後藤正文本人が、楽曲を大切に扱ってくれて嬉しい、と公式にコメントを寄せたほどの、徹底したラブレターだった。

何が起きたか。アニメから入った若い視聴者が、元ネタであるアジカンを掘り始めたのだ。ぼざろきっかけでアジカンを聴いた、聴き直した、という声はネット上に無数にある。かつてNARUTOからアジカンに入った世代がいたように、今度は「アジカンをオマージュしたアニメ」からアジカンに入る世代が生まれた。入口が二重になった、と言ってもいい。

しかも劇中の音楽自体が本気だった。アルバム『結束バンド』(2022年12月28日)には、KANA-BOONの谷口鮪、tricotの中嶋イッキュウ、草野華余子といったロックシーンの書き手が楽曲を提供し、Billboard JAPANのアルバムDLチャートで4週連続首位を獲得。架空のバンドが、現実のチャートを制圧した。さらに原作の扉絵には、フレデリック「オドループ」やフジファブリック「若者のすべて」のMVをオマージュした構図まで仕込まれている。アニメが、実在のロックシーンへの案内板として機能している。ここまで来ると、もう「アニメか、音楽か」という二分法自体が古い。

ただし、その地図には空白がある

とはいえ、だ。アニメ主題歌だけで描いた地図には、構造的な空白があることも指摘しておきたい。

タイアップ曲というのは、バンドの一面でしかない。アニメの主題歌には、89秒のTVサイズで掴む、作品の世界観に寄り添う、幅広い層に届く、という制約と要請がかかる。その条件下で書かれた曲は、バンドの武器の中でも「一番外向きの顔」だ。アルバムの奥に潜んでいる実験曲、ライブでしか化けない曲、10分超えの大曲。そういうバンドの本体は、主題歌の中にはいないことが多い。

つまり、アニメ主題歌だけで音楽を知るというのは、観光名所の写真だけで国を知るのに似ている。エッフェル塔は確かにパリだが、パリはエッフェル塔だけではない。主題歌はバンドの名刺であって、本体ではない。地図の点と点の間には、まだ描かれていない路地が無数にある。

そしてもう一つの空白が、タイアップの網にかからないバンドたちだ。アニメ主題歌は基本的に、ある程度の規模のレーベルとタイアップ枠を取れるバンドに回ってくる。ライブハウスの地下で今夜も鳴っている無数のバンド、タイアップとは無縁のまま名盤を作り続けるインディーのアクトは、この地図には最初から載っていない。地図に載っていないことと、存在しないことは、まったく違う。

地図の広げ方は、実は簡単だ

では、アニメ主題歌の地図しか持っていない人は、どうすればいいのか。答えは簡単で、点から線を引けばいい。

好きな主題歌のバンドを見つけたら、まずそのバンドのアルバムを一枚、通しで聴く。主題歌が「名刺」なら、アルバムは「本体」だ。名刺と本体のギャップにこそ、そのバンドの正体がある。

次に、そのバンドのルーツを辿る。影響を受けたバンド、対バンしてきた相手、所属レーベルの他のアーティスト。たとえばぼざろからアジカンに入った人なら、アジカンが影響を受けた先、アジカンと同じ時代を走ったバンドたちへと線が伸びる。地図は一気に広がる。

そして最後に、ライブハウスに行く。下北沢SHELTERは実在する。アニメの聖地巡礼のつもりでいい。そこで対バンの知らないバンドを観て、一つでも「うわ、なんだこれ」と思えたら、あなたの地図に、タイアップの網にかからなかった路地が初めて描き込まれる。その瞬間、地図はあなただけのものになる。

入口を笑うな、出口にもするな

結論を書く。アニメ主題歌から音楽に入ることは、まったく正しい。20年前からみんなそうだったし、今はアニメ自体がロックシーンへの優秀な案内人になっている。入口を笑う資格など、誰にもない。

ただ、入口は入口だ。そこに立ち止まり続けると、地図は観光パンフレットのまま終わる。主題歌で好きになったバンドがいるなら、その先へ一歩踏み込んでほしい。アルバムへ、ルーツへ、ライブハウスへ。アニメが描いてくれた地図の余白を、自分の足で埋めていく。その作業こそが、音楽を「知っている」から「聴いている」に変える瞬間だ。

あなたの地図の最初の一点が、アニメのOPだったこと。それは10年後、きっと誇っていい思い出になっている。

ではまた。