avengers in sci-fiという「ロックの宇宙船」は、なぜ20年以上も墜ちないのか
3ピースバンドという言葉から、あなたは何を想像するだろうか。ギター、ベース、ドラム。音を足せない編成ゆえの潔さ。引き算の美学。だいたいそんなところだと思う。
その常識を、20年以上かけて壊し続けている3人組が日本にいる。avengers in sci-fi。読み方はアヴェンジャーズ・イン・サイファイ、通称アヴェンズ、あるいはアベンズ。神奈川出身、2002年結成。ギター/ボーカル/シンセの木幡太郎、ベース/ボーカル/シンセの稲見喜彦、ドラム/コーラスの長谷川正法。この3人だ。
3ピースなのに、聴こえてくる音は3人分ではない。大量のエフェクターとシンセサイザーが宇宙空間を作り、その中をギターとベースが飛び回る。「ロックの宇宙船」と評されるこのバンドについて、今日は書いていく。なぜ彼らはこんな音に辿り着いたのか。そしてなぜ、20年以上も同じ3人で飛び続けていられるのか。
高校の同級生と、大学のサークル
始まりは驚くほど地味だ。高校の同級生だった木幡と稲見が2002年に結成し、大学のサークルで木幡が長谷川と出会って、現在の3ピース編成になった。神奈川から下北沢へ出て、ライブハウスで音を鳴らし始める。
面白いのは、最初からこの宇宙的なサウンドだったわけではないことだ。彼らの出発点はメロディック・パンクのカバーだったという。そこからテクノやダンスミュージックへ傾倒し、数々のエフェクターを導入していった結果、あの近未来的なロックサウンドに辿り着いた。つまりアヴェンズの音は、天啓ではなく試行錯誤の堆積物なのだ。パンク小僧がテクノに感電して、機材沼に沈んでいった記録。そう考えると、あのサウンドが急に人間くさく聴こえてくる。
ちなみにバンド名の由来は、At The Drive-InとR.E.M.のアルバム『New Adventures In Hi-Fi』を掛け合わせたものだとされている。ポストハードコアとオルタナ。この二つの単語を混ぜて自分たちの名前にした時点で、彼らが何をやろうとしていたかは明白だ。既存のどこにも属さない場所へ行く。それが最初からの方針だった。
2004年12月、初の正式音源となるミニアルバム『avengers in sci-fi』を発表。2006年8月には初のフルアルバム『avenger strikes back』をリリースする。宇宙船は、静かに離陸した。
助走が異常に長く、異常に濃い
ここからのアヴェンズの歩みが、実にいい。2007年7月、新人バンドの登竜門であるFUJI ROCK FESTIVAL ’07の「ROOKIE A GO-GO」ステージに出演。同年9月にはRUSH BALL 2007、12月にはBEAT CRUSADERSの主催イベントに参加している。そして2008年3月には、アメリカのSXSWにまで出演した。
2008年4月にはツアー会場限定シングル『PLANET ROCK_CD』を出し、2000枚を即座に完売させている。同年、the band apart、the telephones、LITE、the chef cooks me、FRONTIER BACKYARD、ASIAN KUNG-FU GENERATIONといったバンドのツアーに次々と帯同。この対バン相手のリストを見るだけで、当時の彼らがシーンのどのあたりに立っていたかがわかる。テクニカルで、踊れて、ジャンルの壁を無視するバンドたちの、ど真ん中だ。
2008年11月には2ndフルアルバム『SCIENCE ROCK』をリリース。この作品で彼らの音楽性は明確な名前を得た。SCIENCE ROCK、科学のロック。実験と検証を繰り返して音を組み立てる、まさに理系のロックだ。
そして2009年12月、ミニアルバム『jupiter jupiter』でメジャーデビュー。収録曲のタイトルを並べてみてほしい。Universe Universe、Hyper Space Music、Ursa Minor、Radio Earth、Monkey Bites The Sun、Symphony Of The End。宇宙、超空間、こぐま座、地球のラジオ、太陽を噛む猿、終わりの交響曲。全6曲で銀河一周である。この一貫性、この徹底ぶり。ロックの宇宙船という異名は、伊達ではない。
なお、この2009年には木村カエラのシングル「BANZAI」のプロデュースも手掛けている。あの音圧とポップネスの背後にアヴェンズがいたという事実は、もっと知られていい。
メジャーにいても、飼い慣らされなかった
メジャーデビュー後の彼らの動きが、僕は好きだ。普通、メジャーに行けば音は丸くなる。わかりやすくなる。だがアヴェンズはそうならなかった。
2010年、シングル『Delight Slight Lightspeed』を経てアルバム『dynamo』をリリース。2012年4月には『Disc 4 The Seasons』を発表し、四季に捧げる11の物語という、コンセプトアルバム的な構築を見せる。2013年6月には結成11年目にして初のベスト盤『Selected Ancient Works 2006-2013』。2014年6月に5thアルバム『Unknown Tokyo Blues』、2016年4月に6thアルバム『Dune』。
『Dune』のマスタリングを担当したのは、スターリング・サウンドのトム・コインだ。この人はグラミー受賞歴を持つ、世界最高峰のマスタリング・エンジニアの一人である。3ピースの日本のインディー出身バンドが、自分たちの宇宙をそこまで持っていく。この姿勢が、アヴェンズという船の推進力だと思う。
そして『Dune』のツアー「Dune Walk Tour」では、ライブ終演後に来場者がバンドの機材に触れることができた、という。あの膨大なエフェクター群を、客に開放する。宇宙船のコックピットを見せてしまうわけだ。秘密主義とは正反対の、この開けっ広げなオタク気質。こういうところが、このバンドが長く愛される理由の一つだろう。
自分の船は、自分で操縦する
アヴェンズの生き方が最も鮮明に出たのが、2017年だ。結成15周年を迎えた彼らは、レーベル機能などを持つプロジェクト「SCIENCE ACTION」を立ち上げた。音楽レーベルとしての機能に加え、楽曲提供やプロデュース、アートワーク、マーチャンダイズ、モーショングラフィックのデザインまで手掛けるクリエイティブ・ベースだという。
つまり、音楽も、絵も、グッズも、映像も、全部自分たちでやる。誰かに委ねない。翌2018年3月18日には、15周年イヤーの締めくくりとして自主企画ライブ「SCIENCE MASSIVE ACTION」を新木場STUDIO COASTで開催した。
さらに2019年、バンド初のライブ映像作品を作るためにクラウドファンディングを実施すると、目標額の455パーセントを調達してしまう。455パーセントである。長年インディーとメジャーの間を自分たちのペースで歩いてきたバンドが、いざ手を挙げたら4倍以上の支持が返ってきた。数字は正直だ。彼らが積み上げてきた信頼が、そのまま可視化された瞬間だった。
同じ2019年、電子楽器の打ち込み演奏に特化した派生形態「avengers in sci-fi (in sync)」から長谷川が脱退し、マネージャーとして帯同することが発表された。理由は、syncする機材を長谷川が所有していないことと、レーベルSCIENCE ACTIONの人手不足のため。あくまで派生形態からの離脱であり、バンド本体はこれまで通り3人で継続すると明言されている。
この話が僕は好きだ。ドラマーが機材を持っていないから打ち込み形態からは抜けて、代わりに事務所の人手が足りないからマネージャーをやる。ロックバンドの機能不全にありがちな深刻さが、ここには一切ない。合理的で、地に足がついていて、少し可笑しい。20年続くバンドの内実とは、たぶんこういうものなのだ。
彼らはアコースティック編成のUnplugged、打ち込みのin sync、木幡と稲見によるマシンライブユニットのThe Departmentと、活動形態そのものを複数持っている。一つのバンド名の下に、複数のモードを実装する。ソフトウェアのアップデートみたいなバンドである。
なぜ、この船は墜ちないのか
最後に、本題に戻る。avengers in sci-fiは、なぜ20年以上も墜ちないのか。
第一に、音が誰にも似ていないからだ。ある盟友バンドは、彼らに似ているバンドは一つもいない、という趣旨のメッセージを寄せていた。流行の中心にいながら、流行と入れ替え可能にならなかった。踊れるロックのムーブメントが過ぎ去っても、彼らの音は古びない。もともと時代に乗っていなかったものは、時代に置いていかれない。
第二に、自分たちで全部やる体制を作ったからだ。レーベルもデザインも映像も内製化すれば、誰かの都合で活動が止まることがない。船の操縦桿を他人に渡さない。だから航海が続く。
第三に、これが一番大きいと思うが、彼らが心の底から機材と実験を楽しんでいるからだ。ライブの後に客へ機材を触らせるバンドが、音楽に飽きるわけがない。エフェクターを並べ替えて新しい音が出た瞬間の、あの子どもみたいな喜び。それがこのバンドの燃料である以上、燃料が切れる日は当分来ない。
3ピースは音を足せない、というのは思い込みだ。足せないなら、足せる装置を自分で組めばいい。誰かが決めたバンドの定義に、律儀に従う必要はどこにもない。アヴェンズが20年以上かけて証明してきたのは、たぶんそういうことだ。
まだ乗ったことがないなら、今夜あたり、この宇宙船に乗ってみてほしい。3人しか乗員のいない船が、なぜこんなに広い景色を見せてくれるのか。その謎を確かめるには、再生ボタンを押すのが一番早い。
ではまた。

