ネクストブレイクという言葉ほど信用ならないものはない。バズリズムで1位を獲った、サマソニにもロッキンにも呼ばれた、アジア5都市ツアーまでやる──その手の枕詞をぶら下げて出てきたバンドのアルバムは、たいてい「勢い」だけで中身が薄い。だから正直、構えて聴いた。

で、結論から言う。muqueの2ndフル『GLHF』は、その構えを半分ぶち壊してきて、半分は予想通り。これは名盤ではない。だが、聴き終わったあとに「次どうするんだ」と前のめりになってしまう、そういう種類のアルバム。

アルバム全体の総評

タイトルは「Good Luck, Have Fun」──ゲーム開始前に相手へ送るスラングだ。ふざけた語感の裏で、これはかなり真面目な所信表明である。

なにせ振り幅がエグい。ザラついたギターリフで殴ってくる曲があれば、ワンピースのEDで国民に届けにいくメロディもあり、CLAN QUEENを呼んだロックチューンもある。インタビューで本人たちが「肩をぶん回して作った曲」と「初心に帰って純粋に作った曲」が混ざっていると認めているが、それがそのまま音に出ている。良くも悪くも、整理されきっていない。

だがこのアルバムの面白さは、まさにその「整理されてなさ」にある。33分、全10曲。練り上げられた完璧な構築物ではなく、いま勢いに乗ったバンドが葛藤ごと封じ込めた記録だ。隙はある。だが隙ごと愛せる。そういうアルバムである。

1. STYLE.

本人たちが「これができてアルバムの確信が持てた」と語る一曲。つまり背骨だ。アルバムの最初に置いて宣言にしている時点で、構成として正解である。muqueの「らしさ」を一発で叩きつけにきている。掴みとしては強い。

2. Good Luck, Have Fun

ザラついたギターとベースのユニゾンリフ、これが効く。「勝手にやってよ」「お好きにどうぞ」の苛立ちから、サビで「グチャグチャの心を浄化させよう」へひっくり返す構造──感情のベクトルが途中で反転するこの設計が、このバンドの一番の武器だ。表題曲にふさわしい。これは刺さる。

3. The 1

ワンピースED。つまりこのアルバム最大の「外向きの顔」である。当然キャッチーで、間口が広い。ただ正直に言うと、タイアップ曲特有の「みんなに届くように整えました」感が、アルバムの中だと少しだけ優等生に見える瞬間がある。悪い曲ではない。だが、2曲目の毒の後だと、口当たりが良すぎる。ここは惜しい。

4. Bouquet

タイトルからして甘い。緩急の「緩」を担う役割だろう。攻めの2連発を浴びたあとの着地点として機能している。ただ、こういう曲こそメロディの強度がすべてで、ここがふわっと流れてしまうと「箸休め」止まりになる。muqueのメロディセンスを試される一曲だ。

5. ルーティン

日常の手触りを扱うタイトル。muqueのような勢い型のバンドが「ルーティン」という地味な題材をどう鳴らすかは、地力が出るポイントである。衝動だけのバンドには書けない曲のはずで、ここでバンドの「引き出し」を見せにきている。

6. HAPPY GROOVY

名前の通りのアッパー曲だろう。ライブで跳ねさせるための一曲だ。アルバム中盤に置いて空気を入れ替える役割は明確である。ただ「HAPPY」「GROOVY」と能天気な看板を掲げた曲ほど、中身が記号的だとすぐバレる。ここが本物のグルーヴか、ノリの良さの記号かで評価が割れる。

7. DARK GAME

タイトルからして明確に陰の側だ。「GLHF」=ゲームというテーマと最も直結する一曲で、コンセプト的には背骨に近い。明るいアルバムに一発、影を落とせるかどうか。muqueの表現の奥行きはここで測れる。化けている可能性が高いのはこのへんだ。

8. Dancing in my bad life(feat. CLAN QUEEN)

唯一の客演。CLAN QUEENを迎えたロックナンバーで、ここはアルバムの「ハレ」の一曲である。3ピースの音像に外の血が入ることで風通しが変わる。客演ものは「ゲスト食われ」か「主役不在」になりがちだが、ここをmuqueの曲として鳴らしきれているかが分水嶺だ。

9. bestie

終盤に「親友」。GLHFという挨拶のテーマがいちばん素直に出る場所である。ここで青臭くなれるかどうかが、このバンドの誠実さの証明になる。技巧より体温で勝負する曲だと予想する。

10. for you

締めが「for you」。あまりにストレートなタイトルで、わかりやすすぎて逆に不安になる──が、アルバムを「あなたへ」で閉じるのは、GLHFという企画に対する一本筋の通し方として理にかなっている。最後に手を差し出して終わる構成は、嫌いになれない。

良かった点

感情のベクトルが曲の途中でひっくり返る──苛立ちが解放に転じる、あの設計。これがmuqueの一番の発明だ。それからやはり、3ピースなのに音像が痩せていない。ギタリスト本人が「シンセっぽい音も弾けば、まったく弾かない曲もある」と語る通り、ギターの役割を曲ごとに変えてトラックを成立させにいく姿勢は、地力がある証拠である。そしてなにより、葛藤を整理せずそのまま出した胆力。これは衝動を殺さなかったということで、素直に評価する。

物足りなかった点

振り幅がそのまま「散漫さ」になりかけている瞬間がある。タイアップ曲やアッパー曲の「届けにいく」整い方と、毒のある曲の生々しさが、同じアルバムの中でときどきケンカしている。33分というコンパクトさは潔いが、裏を返せば一曲一曲で深く潜る余白を捨てたとも言える。あと──アッパー系の曲名が記号的で、中身が看板に追いついているか、聴くまで信用しきれない弱さがある。これは弱い、と言い切れる箇所が、惜しいことに数曲ある。

どんな人に刺さるか

完成された名盤より「いま伸びてるバンドの生っぽい記録」が好きな人。感情がぐちゃぐちゃのまま音になっている瞬間に弱い人。3ピースのバンドサウンドに飢えている人。逆に、隙なく構築された一枚を求める人には、たぶん物足りない。それでいい。これはそういうアルバムではない。

評価

7.5 / 10

名盤には届いていない。だが凡作でも断じてない。「次が本番」と思わせる力のある、惜しくも愛おしい一枚だ。減点は散漫さと数曲の記号性。加点は、衝動を殺さなかった胆力に対して。

まとめ

GLHF──「よろしく、楽しんで」。ゲーム前の軽い挨拶だ。だがこのバンドは、その軽い挨拶に、整理しきれなかった感情を全部詰め込んできた。だからこのアルバムは綺麗じゃない。手垢がついているし、ところどころほつれている。

だが、こっちが本当に聴きたいのはそういう音だったりする。完璧な3rdを作る前の、まだ自分たちが何者か分かりきっていないこの瞬間の音。あとから「あの頃のmuque、まだ荒かったよな」と懐かしむことになる、その「あの頃」が、たぶん今だ。

幸運を。楽しんで。次の一枚で、こっちの構えを全部ぶち壊してくれ。

ではまた。