BEAT CRUSADERS|お面の男たちが35分で証明した、「POP」という名の暴力
ドット絵の顔面を貼り付けたお面の5人組が、2005年の日本のロックシーンに何を持ち込んだか。答えは一つ。純度100パーセントの「POP」だ。
BEAT CRUSADERS、通称ビークル。ヒダカトオル(Vo/Gt)率いるこのバンドは、メンバーの顔をドットマトリクスプリンタで出力したお面で覆うという人を食ったギミックと、その見た目からは想像もつかない本気の音楽性で、90年代末から走り続けてきた。インディーズ期を支えたumu、Araki、Thaiが脱退し、クボタマサヒコ、カトウタロウ、ケイタイモ、マシータという新たな4人が加入。その第2期体制で初めて作られたオリジナルアルバムが、メジャー1stフルにして通算5枚目の『P.O.A.〜POP ON ARRIVAL〜』だ。
2005年5月11日、デフスターレコーズよりリリース。通常盤は全14曲、初回限定盤はボーナス2曲を加えた16曲。オリコン最高3位、18万枚以上を売り上げる大ヒットとなった。タイトルは「DEAD ON ARRIVAL(到着時死亡)」をもじった「到着即ポップ」。医療用語を悪ふざけでポップに反転させる、このセンスがすべての始まりだ。
アルバム全体の総評
まず数字を見てほしい。通常盤14曲で、およそ35分。1曲平均2分半。この短さこそが、本作の思想だ。
ビークルのポップは、引き算のポップだ。イントロは最短、間奏は必要最小限、サビは一度聴いたら忘れられない強度で、余韻を残す前に次の曲が始まる。ヒダカトオルの書くメロディは、洋楽由来のパワーポップやメロディックパンクの美味しいところだけを抽出したような普遍性を持っていて、そこに全編英語詞の歌が乗る。日本人バンドがここまで「洋楽っぽさ」を嫌味なく鳴らした例は、当時ほとんどなかった。
そしてこのアルバムの背景には、アニメ『BECK』という追い風がある。主題歌「HIT IN THE USA」のスマッシュヒットを受けてのメジャー第1弾。注目が最大化した瞬間に、スキット(小曲)まで計算し尽くした35分のフルコースを叩きつける。平均年齢32歳、当時としては遅咲きのダークホースが、キャリアの円熟と初期衝動を両立させた瞬間の記録。これが名盤にならないわけがない。
〜NAMPLA〜
31秒のオープニングスキット。コミカルなシンセとメンバーのわいわいした空気で、「これから楽しいことが始まる」ことだけを伝えて消える。アルバムの扉として満点の仕事だ。
ISOLATIONS
前置きなしで歌から始まる2分14秒。孤独、というタイトルなのに音はどこまでも開放的で、ヒダカの声の伸びの良さが一発でわかる。この曲の疾走で、アルバムのギアは一気にトップに入る。
HIT IN THE USA
説明不要のキラーチューン。2004年10月にシングルリリースされ、アニメ『BECK』のOPとして時代に焼き付いた一曲だ。アメリカでヒットしたことなんてないのに「HIT IN THE USA」と歌う自虐とユーモア、その裏にある切実な憧れ。2分59秒に、バンドの夢と皮肉が全部詰まっている。これは刺さる、どころか突き刺さって抜けない。
FEEL
先行シングル。ミドルテンポ寄りの歌モノで、疾走一辺倒ではないビークルの懐の深さを示す。サビの多幸感はアルバム屈指で、ライブで大合唱が目に浮かぶ設計だ。
LOVEPOTION #9
アルバムからリカットされ、DVDシングルにもなった一曲。ナンバリングされた惚れ薬、という古典的なモチーフをビークル流に調合。シンセの効いたポップサイドの代表格で、ここまでの5曲で捨て曲ゼロという恐ろしい事実に気づく。
CROWN FOR THE DAY
隠れた人気曲。サビの歌メロがどこか可愛らしく、終盤のギターソロがエモーショナルに泣く。派手なシングル曲の谷間で、アルバムの温度を支える名脇役だ。こういう曲の質で、アルバムの真価は決まる。
〜SASQUATCH〜
2つ目のスキット。未確認生物の名を冠した1分37秒で、途中からベンチャーズ風のサーフサウンドに化け、最後はパンクに雪崩れ込む。ふざけているのに芸が細かい。ビークルの雑食性が凝縮された小品だ。
JAPANESE GIRL
ライブ定番のキラーチューン。楽しさと切なさが同居するメロディは、彼らの真骨頂だ。日本人が英語で「JAPANESE GIRL」と歌う、そのねじれた視点も面白い。海外のバンドが歌う日本像を、日本人が演じ返すような批評性がある。
LOVE IS INSPIRATION
2分弱の駆け足で「愛はインスピレーション」と言い切る。宇宙的な浮遊感のあるサウンドで、ジャケットのアートワークと響き合う一曲。短いのに景色が広い。
DISASTER
災害、という不穏なタイトルを、これまた爽快に鳴らしてしまう。アルバム後半の推進力を担う一曲で、ネガティブな言葉をポップに反転させるビークルの得意技が光る。
LOVE DISCHORD
アルバム最長の4分。ミニアルバム『A PopCALYPSE NOW〜地獄のPOP示録〜』からの再収録で、PVも制作された本作のエモーショナルな核だ。LOVEとDISCHORD(不協和)を繋げた造語センスに、ヒダカの作家性が滲む。疾走の海の中で、この曲だけ時間の流れが違う。ここは泣ける。
BLOCKBASTARD
リカットもされた攻撃的ナンバー。ブロックバスターをバスタード(ろくでなし)に変換した言葉遊びで、ハリウッド級の大作感とパンクの粗暴さを同時にやる。ラスト前の暴れ場として完璧な配置だ。
RUSK
本作で唯一、作詞作曲ともヒダカトオル単独クレジットの一曲。乾パン、ラスク。この素っ気ないタイトルの曲が、アルバム終盤で妙に沁みる。祭りの終わりの気配が、ここから漂い始める。
S×E×X×I×S×T
インディーズ期のアルバム『SEXCITE!』を思わせるタイトルで締める、1分43秒のハードコア。スペルを合唱して、スカッと終わる。感傷に浸る暇も与えない幕切れだ。35分間の祭りの最後に、余韻ではなく爆発を置く。この潔さこそビークルだ。
良かった点
第一に、曲の強度と密度。14曲35分、捨て曲なし。スキットすら計算された配置で、アルバム一周が本当に一瞬だ。第二に、メロディの普遍性。「HIT IN THE USA」「JAPANESE GIRL」「LOVE DISCHORD」と、20年経っても色褪せないメロディがごろごろ転がっている。第三に、ユーモアと本気の配合。お面、ふざけたタイトル、スキットの悪ふざけ。その全部が、真剣な音楽の推進剤として機能している。ふざけながら本気を出す、その二枚腰が美しい。
物足りなかった点
不満は少ないが、あえて言う。まず、初回限定盤のみ収録のバラード「SAY GOOD-NIGHT」の扱いだ。本編と毛色の違う名曲を初回盤に閉じ込めた判断は、商法としては理解できるが、作品としては惜しい。あの曲が本編にいたら、アルバムの表情はもう一段深くなった。それと、これは魅力と表裏一体だが、35分はあまりに一瞬で終わる。もう2、3曲、腰を据えた曲が聴きたかったという飢えは残る。もっとも、その飢えこそが「もう一周」させる仕掛けなのだとしたら、完全に彼らの手のひらの上だ。
どんな人に刺さるか
パワーポップ、メロディックパンク、青春パンクを通ってきた人は全員対象だ。アニメ『BECK』でこのバンドを知った世代には、あの頃の記憶ごと蘇る一枚になる。そして、最近の音楽は曲が長い、イントロが長い、と感じている今のリスナーにこそ聴いてほしい。サブスク時代が求める「短くて強い曲」を、彼らは20年前にCDでやり切っていた。時代がようやくビークルに追いついたのだ。
評価
9点/10点
名盤だ。文句なしに。メジャー転身、メンバー再編という不安要素しかない状況で、キャリア最高のポップアルバムを作り上げた。この一枚は「ポップとは何か」という問いへの、35分の模範解答だ。減点の1点は、「SAY GOOD-NIGHT」を本編から外した判断と、貪欲なリスナーには物足りない尺。それ以外に瑕疵が見当たらない。2005年の日本のロックを語るなら、避けては通れない一枚だ。
締め
BEAT CRUSADERSは2010年に「散開」と称して、その活動に幕を下ろした。お面を被ったまま走り抜けた男たちは、素顔の代わりに、この完璧な35分を残していった。POP ON ARRIVAL。届いた瞬間にポップ。その宣言通り、このアルバムは再生した瞬間から最後の1秒まで、ポップであることをやめない。顔を隠したバンドの音楽が、これほど人懐っこいという矛盾。その矛盾ごと愛おしい。今夜、35分だけ時間を空けてほしい。祭りは、再生ボタンの向こうでまだ続いている。
ではまた。

