COALTAR OF THE DEEPERS——あなたはこのバンドを知らない。でも、この男の曲はもう聴いている
いきなりだが、断言したい。この記事を読んでいるあなたは、COALTAR OF THE DEEPERS(コールター・オブ・ザ・ディーパーズ)というバンドを、おそらく多分知らない。だが、その中心人物・NARASAKIが作った音楽は、ほぼ間違いなく、どこかで耳にしている。
BABYMETALの楽曲。ももいろクローバーZへの提供曲。大槻ケンヂと組んだバンド・特撮。アニメ『楽園追放』や『覆面系ノイズ』の音楽。ドラマ『深夜食堂』の劇伴。果ては『ちびまる子ちゃん』の「おどるポンポコリン」新バージョンのアレンジまで。この男の仕事は、日本のポップカルチャーの血管に、それと知られず流れ込んでいる。
そのNARASAKIが30年以上、本丸として鳴らし続けているバンドがCOALTAR OF THE DEEPERSだ。デスメタルとシューゲイザーを混ぜるという、正気を疑う発明をやってのけた異形のバンド。今日は、この「知る人ぞ知る」の極致のような存在を、結成から最新の逆襲劇まで、徹底的に掘り下げる。
ハードコアの灰の中から生まれた
物語は1991年5月に始まる。ハードコアバンド・臨終懺悔を解散したばかりのギタリストNARASAKIが、元Captain CondomsのドラマーKANNOとともに結成したのが、COALTAR OF THE DEEPERSだ。
この出自が重要だ。彼らは「おしゃれな轟音」から出発したのではない。ハードコアという、最も荒々しい音楽の灰の中から生まれた。だからこのバンドのシューゲイザーには、常に暴力の匂いが漂う。1994年、アルバム『THE VISITORS FROM DEEPSPACE』でビクターからメジャーデビュー。このアルバムは後に、以降の日本のギターロックの歴史を大きく進化させた名盤と評されることになる。
以来、メンバーチェンジを繰り返しながら、現在はNARASAKI(Vo/G/プログラミング)とKANNO(Dr)の2人を核に、サポート陣を迎えた編成で活動している。そのサポート陣がまた濃い。Plastic Treeのナカヤマアキラ、COCOBATのKoji、cali≠gariや元SEX MACHINEGUNSの村井研次郎。ちなみにナカヤマは、サポート参加以前からCOTDのサウンドに影響を受けており、Plastic Treeの楽曲制作にNARASAKIが携わる相互関係まである。シーンの濃い血が、このバンドに集まってくるのだ。
デスメタル+シューゲイザーという発明
COTDの音楽性を一言で説明するのは、ほぼ不可能。公式の説明を借りれば、オルタナティブロックを基盤に、シューゲイザー、デスメタル、スラッシュメタル、ポストハードコア、エレクトロニカ、ネオアコ、さらにはボサノヴァやサンバまで取り込んだ独自のサウンド、となる。情報量が多すぎる。
NARASAKI本人は自分たちの音を、ネッズ・アトミック・ダストビンとダイナソーJr.を足して2で割り、そこにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの風味を加えたもの、と冗談めかして説明している。だが実際に聴けば分かる。この説明ですら、まだ足りない。
甘く儚いウィスパーボイスと天上のメロディが漂っていたかと思えば、次の瞬間、デスメタルのブラストビートと咆哮が襲いかかってくる。美と暴力が、一曲の中で平然と同居する。シューゲイザーの「夢見心地」とデスメタルの「殺意」。本来なら絶対に混ざらないはずの二つを、彼らは1990年代の時点で混ぜてしまった。世界的に見ても、これほど早く、これほど高い純度でこの融合をやったバンドはほとんどいない。要するに、早すぎた発明だったのだ。
名盤『Submerge』——轟音の海に沈む
その発明が最初の頂点を迎えたのが、活動休止を経て1998年にリリースされたフルアルバム『Submerge』だ。
ガシガシにノイジーなギターサウンドが怒涛のごとく押し寄せる轟音アルバムでありながら、途中にサーフロック、ジャズ・ソウル調、ドラムンベースのインスト曲が挿入され、それらが絶妙なブリッジとなって、最後まで一気に聴かせてしまう。同時発売のシングルには、13分に及ぶ大作「receive assimilation」のフルサイズ版や、90年代初頭のUKシューゲイザー、ザ・フェイス・ヒーラーズのカバーまで収録。轟音、実験、ポップネス、引用——このバンドのすべてが、ここに詰まっている。
その後も2001年の『NO THANK You』、2007年の『Yukari Telepath』と、寡作ながら濃密なアルバムを重ねていく。初期のメタル寄りのアグレッシブさから、中期はツインヴォーカル体制で甘美さとポップネスを追求し、さらに音楽的な幅を広げていった。決して多作ではない。だが一枚一枚が、フォロワーには絶対に真似できない密度を持っている。
裏方としての顔——日本のポップカルチャーに潜むNARASAKI
ここで、冒頭の話に戻る。COTDが寡作だった理由のひとつは、NARASAKIの「裏の顔」があまりに多忙だったからだ。
2000年、筋肉少女帯の大槻ケンヂが率いるバンド・特撮に、ギタリスト兼サウンドプロデューサーとして参加。以降、大槻関連の「林檎もぎれビーム!」「空想ルンバ」といった楽曲群の作編曲を手がける。さらに楽曲提供の幅は、ももいろクローバーZ、BABYMETAL、果ては純烈まで、100組以上のアーティストに及ぶ。BABYMETALのライブ定番曲「ヘドバンギャー!!」も彼の仕事だ。あの世界を席巻したメタルアイドルの初期サウンドの一角に、COTDで培われた「メタルとポップの融合」のノウハウが流れ込んでいると思うと、痺れないだろうか。
劇伴の仕事も多い。ドラマ『ザ・クイズショウ』『深夜食堂』、アニメ『楽園追放』『覆面系ノイズ』。2022年には、一転して静かなアンビエント・ソロ作『HINODE TRACKS』までリリースしている。ヒーリングからデスメタルまで。この振れ幅こそが、COTDというバンドの異形さの源泉なのだ。
「DEAR FUTURE」——新世代との邂逅
バンドとしてのCOTDにも、新しいリスナーとの重要な接点があった。2011年、TVアニメ『輪るピングドラム』のエンディングテーマ「DEAR FUTURE」だ。
轟音シューゲイザーとネオアコ的な繊細なメロディの融合。あるリスナーはこの曲について、似た音楽は日本にもたくさんあるが、行くところまで行ってしまう刹那性の強烈さがまるで違う、と評し、「日本が世界に誇っていい、本当のクールジャパンだ」とまで書いている。このアニメをきっかけにバンドの存在を知り、過去作を遡り始めた若いリスナーは少なくない。
同業者からの敬意も厚い。世界的に評価される轟音バンドBorisは、COTDの楽曲「To the Beach」をカバーしている。リスナーには知られずとも、わかっている人間たちからは、ずっとリスペクトされ続けてきたバンドなのだ。
27年目の復讐——『REVENGE OF THE VISITORS』
そして物語は、痛快なクライマックスを迎える。2021年1月27日、COTDはニューアルバム『REVENGE OF THE VISITORS』を、日本とアメリカで同時リリースした。
このアルバム、ただの新作ではない。1994年のデビュー作『THE VISITORS FROM DEEPSPACE』の全曲を、オリジナルメンバー5人で再録音したものなのだ。27年前、日本のギターロックの歴史を進化させながらも、広く知られることのなかった名盤。それを当時のメンバーが再び鳴らし、今度は海外デビューまで果たす。タイトルの意味はそのまま、「ビジターズたちの復讐」である。
早すぎた発明は、四半世紀の時を経て、ようやく世界が追いついてきた。80年代ニューウェイヴからネオアコ、90年代オルタナとシューゲイザーのマジカルな融合が、色褪せない輝きで現代に蘇った——リリース時の音楽メディアの評は、そのまま彼らの勝利宣言として読める。遅れてきた評価ほど、痛快なものはない。
おすすめCD——深海への潜り方
『Submerge』(1998年)——迷ったらこの名盤から
COTD入門の定番にして最高峰。轟音とポップ、暴力と美、実験と快楽。このバンドの全要素が最高の濃度で詰まった一枚だ。ジャンルの渋滞に圧倒されながら、気づけば最後まで聴き終えている。その体験こそがCOTDだ。
『REVENGE OF THE VISITORS』(2021年)——現在進行形の伝説
デビュー作の再録盤にして、最新のCOTD。1994年の楽曲が2021年の音圧で蘇る。「KILLING ANOTHER」から始まる8曲は、30年前の音楽がまったく古びていないことの証明だ。ここから原曲の『THE VISITORS FROM DEEPSPACE』に遡るのも一興。
『Yukari Telepath』(2007年)——深化の到達点
バンドの音楽的な幅が最大限に広がった時期のフルアルバム。轟音だけではない、エレクトロニカやアンビエントの要素まで飲み込んだ、深く広い音世界。『Submerge』の次に潜るべき水深はここだ。
シングル「DEAR FUTURE」(2011年)——新世代への扉
『輪るピングドラム』のEDとして、新しいリスナーとバンドを繋いだ一曲。刹那的な美しさと轟音の同居という、COTDの本質が最もポップな形で結晶している。アニメ経由でこの記事に辿り着いた人は、ここから潜り始めてほしい。
まとめ——深海は、まだ掘り尽くされていない
COALTAR OF THE DEEPERSは、1991年にハードコアの灰から生まれ、デスメタルとシューゲイザーの融合という早すぎた発明をやってのけ、寡作ながら名盤を残し続けてきた。その中心人物NARASAKIは、BABYMETALからアニメ劇伴まで、日本のポップカルチャーの裏側に音を流し込み続ける影の重要人物。そして2021年、デビュー作の再録『REVENGE OF THE VISITORS』で、ついに海外へ「復讐」を果たした。
知名度と、音楽の価値は別物だ。このバンドほど、その言葉が似合う存在はいない。あなたが知らないだけで、あなたの好きなあの曲の裏に、この深海の住人たちの遺伝子は流れているかもしれないのだ。
まずは『Submerge』を、できればヘッドホンで、音量を上げて聴いてみて!甘い夢と暴力が同居する深海へ、一度沈んでみてほしい。浮上したとき、あなたの「轟音」の基準は、たぶん書き換わっているだろう。
ではまた。

