NUMBER GIRL | 解散、再結成、そして再解散。この「二段構え」が、ただのバンドの話で終わらない理由
バンドの再結成というのは、たいてい少し気まずいものだ。あれほど劇的に解散したのに、なぜまた集まったのか。続けるのか、また終わるのか。ファンは喜びながらも、どこかで身構える。
ところが、その「再結成あるある」を、ことごとく軽やかに飛び越えていったバンドがいる。NUMBER GIRL(ナンバーガール)だ。2002年に解散し、2019年に再結成し、2022年に再び解散した。この「解散→再結成→再解散」の二段構え。普通なら湿っぽくなるその過程を、彼らは——というより、首謀者の向井秀徳は——あまりに潔く、あまりに飄々と、そして妙に金にこだわりながら、やってのけた。今日はこの稀有な「二段構え」の全貌と、その裏にある美学を辿りたい。
まず、NUMBER GIRLとは何だったか
NUMBER GIRLは、1995年8月に福岡で結成されたオルタナティブロックバンドだ。メンバーは向井秀徳(Vo/G)、田渕ひさ子(G)、中尾憲太郎(B)、アヒト・イナザワ(Dr)。
彼らの音楽は、日本のロック史に一本の鋭い傷跡を残した。ピクシーズやソニック・ユースといった洋楽オルタナの影響と、eastern youth、bloodthirsty butchers、fOULをはじめとする日本のオルタナ〜ハードコアの血脈。その接点から向井が描き出したのは、鋭利で冷徹で硬派で、それでいてセンチメンタルな楽曲世界だった。
演奏も唯一無二だ。フロアを熱狂させる田渕ひさ子のジャズマスターの激演、頭も体も震撼させる中尾憲太郎の極太のルート弾き、怒涛の加速感に満ちたアヒト・イナザワの爆裂ドラミング、そして向井のテレキャスターが奏でる清冽で神経質なコードワーク。1997年に1stアルバム『SCHOOL GIRL BYE BYE』、1999年5月にシングル「透明少女」でメジャーデビュー。「気づいたら俺は夏だった風景 街の中へきえてゆく」——あの一節を聴いた瞬間に人生が変わった、という人は数えきれない。
第一の解散(2002年)——「四人でナンバーガールである」
最初の解散は、2002年だった。同年9月にオフィシャルサイトで発表され、11月30日の札幌PENNY LANE 24でのライブをもって、バンドは幕を閉じた。
このときの解散理由が、後の二段構えを理解する上で重要だ。発表された言葉によれば、「『中尾、田渕、イナザワ、向井』の四人で『ナンバーガール』である、という共通の意思が強いため『ナンバーガール解散』という決断に至りました」というものだった。
つまり彼らにとって、ナンバーガールとは「あの四人」が揃って初めて成立するものだった。誰かが抜けて別のメンバーで続ける、という選択肢は最初からない。四人でなければ、ナンバーガールではない。この強烈な「四人でひとつ」の意識が、実は後の再結成と再解散の伏線になっている。解散後、向井はZAZEN BOYSを始動させ、伝説は一度、きれいに完結したかに見えた。
第二幕(2019年)——「酔っぱらっていた。そして、思った」
ところが、17年の時を経て、伝説は動き出す。2019年2月15日、向井はオフィシャルサイトで再結成を発表した。そのコメントが、もはや語り草になっている。一字一句、味わってほしい。
「2018年初夏のある日、俺は酔っぱらっていた。そして、思った。またヤツらとナンバーガールをライジングでヤりてえ、と。あと、稼ぎてえ、とも考えた。俺は酔っぱらっていた。俺は電話をした。久方ぶりに、ヤツらに。そして、ヤることになった。できれば何発かヤりたい」
なんという再結成宣言だろうか。崇高な使命感も、ファンへの感動的な約束もない。酔った勢いと、「ライジング(RISING SUN ROCK FESTIVAL)でまたやりたい」という素朴な欲求、そして「稼ぎてえ」という、あまりに正直すぎる本音。再結成という重い決断を、ここまで軽やかに、人間くさく宣言したバンドはいない。だが、この飄々とした姿勢こそが、いかにも向井秀徳なのだ。
再結成は、もちろんオリジナルメンバー四人。あの「四人でひとつ」が、17年ぶりに揃った。彼らはコロナ禍にもかかわらず、全国ツアーや日比谷野音での単独公演、各地のフェスを精力的にこなし、かつての熱量を寸分違わず再現してみせた。再結成バンドにありがちな劣化や違和感は、そこにはなかった。
再解散(2022年)——「思ったよりも稼げなかった」
そして、二段構えのクライマックスがやってくる。2022年8月13日、再結成の大きな目的としていた「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO」のステージで、彼らは再び解散することを発表した。
ここでも、向井の弁が振るっている。再結成の目的を果たしたバンドはこれをひと区切りとし、メンバーは各自の活動に戻る、と。そして金銭については、こう綴った。「私は稼ぎてえ、と切望しておりました。ひとりの取り分として結局1LDK築20年の中古マンションの購入価格くらいになっただろうか。(中略)私としてはこの目的を全くもって果たせていない。目的とは金銭のことである。これはくやしい」。後のインタビューでも、向井はあっさり「思ったよりも稼げなかった」と認めている。
これである。再結成の目的を「稼ぐこと」と公言し、いざ終わるときに「思ったより稼げなかった」と悔しがる。普通のバンドなら口が裂けても言わない本音を、ユーモアにくるんで堂々と差し出す。しかも彼はこう付け加えた。「いや、プライスレスのヨロコビがあったではないか。そういうことだ。そういうことなのだ」と。金は稼げなかったが、得難い喜びはあった。この照れ隠しのような結論が、なんとも人間くさくて、たまらない。
最終的に、再結成後のラストライブは、2022年12月11日、ぴあアリーナMMでの公演「NUMBER GIRL 無常の日」。二度目の幕引きにも、彼らは「無常」という言葉を選んだ。すべては移ろい、留まらない。だからこそ美しい。二段構えの物語は、ここで一旦、閉じられた。
なぜ、この「二段構え」は美しいのか
ここで少し考えたい。なぜこの解散→再結成→再解散が、ただのバンドの離合集散で終わらず、これほど語りたくなる物語になっているのか。
ひとつは、徹頭徹尾「目的が明確だった」ことだ。再結成は「ライジングでやる」「稼ぐ」という具体的な目的のためであり、その目的に区切りがついたから解散する。だらだらと続けない。情に流されない。理由が常に乾いていて、潔い。多くの再結成バンドが「いつ終わるのか」を曖昧にしたまま惰性で続けてしまうのに対し、ナンバーガールは入口でも出口でも、理由をはっきり言葉にした。
もうひとつは、向井秀徳という人間の一貫性だ。あの飄々として、金に正直で、それでいて「無常」という仏教的な諦観を漂わせる独特の人格。それが解散宣言にも再結成宣言にも再解散宣言にも、まったくブレずに貫かれている。彼の言葉は、いつも酩酊と日常の狭間から発せられ、シリアスとユーモアの境界をひらひらと舞う。この一貫した個性があるからこそ、二段構えという複雑な経緯が、一本の筋の通った「向井秀徳の物語」として読めるのだ。
そして極めつけは、向井が再解散の際に残した、もうひとつの言葉だ。「また稼ぎてえと思ったら、何度でも時を超えて我々は集まり、福岡市博多区からやってまいります」。つまり彼は、再々結成すら、軽やかに示唆している。終わりを宣言しながら、扉は閉めない。この緩さこそが、ナンバーガールの「二段構え」を、悲壮な完結ではなく、いつでも続きうる開かれた物語にしている。無常とは、終わりではなく、ただ移ろい続けることなのだ。
おすすめCD——伝説に触れる入り口
『SCHOOL GIRL DISTORTIONAL ADDICT』(1999年)——まずはこの初期衝動から
メジャー1stにして、入門の最右翼。あの「透明少女」を収録した、ナンバーガールの初期衝動が炸裂する一枚だ。「タッチ」「EIGHT BEATER」など、ポップさと殺伐さが同居する名曲が並ぶ。後の殺伐とした「冷凍都市」的世界へ向かう、その手前の瑞々しいエネルギー。まずはここから、向井ワールドに足を踏み入れてほしい。
『SAPPUKEI』(2000年)——殺伐の極致
2ndアルバム。タイトルどおり、殺風景で冷たい都市の感触が全編を覆う。サイケなガレージ、オーソドックスな8ビート、パンクもメタルも真っ向勝負。録音にもこだわり、バンドの世界観が一気に深化した、コアなファンに最も支持される一枚だ。「ZEGEN VS UNDERCOVER」「TATTOOあり」など、鋭利なギターが突き刺さる。初期衝動の次は、この深淵へ。
『サッポロ OMOIDE IN MY HEAD状態』(2003年)——最初の解散の記録
2002年11月30日、札幌ペニーレインでの第一の解散ライブを丸ごと収録したライブアルバム。ナンバーガールがライブバンドとして放っていた、圧巻の熱量と狂騒感がここにある。スタジオ盤では捉えきれない、あの四人が同じ空間で爆発する瞬間。最初の幕引きの夜の空気を、まるごと追体験できる。彼らの本質はライブにあった、ということがよく分かる一枚だ。
ベスト盤『OMOIDE IN MY HEAD 1』——全体像を一気に掴むなら
「透明少女」「OMOIDE IN MY HEAD」「DESTRUCTION BABY」「鉄風 鋭くなって」など、代表曲を網羅したベスト盤。どこから聴くか迷うなら、これで全体像を掴んでから各アルバムへ潜るのも良い。再結成に合わせてリイシューもされており、入手しやすいのもありがたい。
まとめ——移ろいゆくものの、いちばん美しい形
整理しよう。NUMBER GIRLは1995年に福岡で結成され、「四人でひとつ」の意識のもと2002年に解散。17年後の2019年、「ライジングでやりたい、稼ぎたい」という向井の酔った思いつきから再結成し、目的を果たした2022年に再び解散した。その全過程を貫いていたのは、目的の明確さと、向井秀徳という人間の、飄々として乾いた、しかし無常観を湛えた一貫した個性だった。
二段構えの解散劇は、普通なら「もう信じられない」と冷めてしまいそうなものだ。だがナンバーガールの場合、それは逆に作用した。明確な理由とともに集まり、明確な理由とともに去る。そして「また稼ぎたくなったら戻る」と、扉を開けたまま終わる。この潔さと緩さの同居が、彼らを唯一無二の存在にしている。
諸行無常。すべては移ろい、留まらない。だがナンバーガールは、その移ろいそのものを、これ以上ないほど鮮やかに生きてみせた。終わって、戻って、また終わる。その繰り返しの全部が、ひとつの作品だった。
もしまだ「透明少女」を聴いたことがないなら、今すぐ再生してほしい。そして願わくば、向井がまた「稼ぎてえ」と酔っぱらう日が、いつか来ることを。福岡市博多区から、あの四人がまたやってくる日を、僕は気長に待っている。
ではまた。

